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CFRPとは?特徴や主な用途、社会実装における課題を解説

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自動車や航空宇宙、エネルギー機器など多様な分野で注目されている材料がCFRPである。CFRPとは炭素繊維強化プラスチックの略称で、軽量でありながら高い強度と剛性を併せ持つ複合材料だ。従来の金属に比べ圧倒的に軽く、燃費改善や環境負荷の低減に大きく貢献するだけでなく、設計自由度を高めることでこれまでにない構造や形状を実現できる点が特徴である。

近年では次世代モビリティや再生可能エネルギー分野など、持続可能な社会に直結する領域で不可欠な素材とされている。しかし一方で、CFRPには製造コストの高さや加工の難しさ、リサイクルの困難さといった課題も存在する。本記事ではCFRPの基本的な特徴や用途、社会実装における課題について解説し、その可能性と現実的な課題の両面を理解できるよう整理する。

CFRP(炭素繊維強化プラスチック)とは?

CFRP(炭素繊維強化プラスチック)とは、炭素繊維を樹脂で固めた複合材料であり、Carbon Fiber Reinforced Plasticsの略称である。炭素繊維は非常に軽量でありながら高い強度と剛性を持ち、プラスチックの柔軟性や成形性と組み合わせることで、金属では実現しにくい特性を備えることができる。

具体的には、鉄の約4分の1の軽さでありながら、同等以上の強度を持つため、自動車や航空機の軽量化による燃費改善や環境負荷低減に大きく貢献している。また、振動吸収性や耐疲労性にも優れており、スポーツ用品や精密機器など幅広い分野で利用されている。

CFRPと炭素繊維の歴史

炭素繊維の歴史は19世紀に遡り、トーマス・エジソンが白熱電球のフィラメントとして竹を炭化させたのが初期の利用例とされる。その後、1950年代にイギリスで高性能な炭素繊維の研究が進み、1960年代には日本でポリアクリロニトリル(PAN)系を原料とする炭素繊維の量産化技術が確立された。

これにより航空宇宙分野を中心にCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の活用が広がった。1970年代以降は自動車やスポーツ用品にも応用され、軽量かつ高強度な特性が注目されていった。現在では持続可能な社会の実現に向け、エネルギー効率化や環境負荷低減に寄与する先端材料として、CFRPは幅広い産業分野で利用されるに至っている。

CFRPの特徴

CFRPの特徴は「軽く」「強く」「腐食しない」といわれている。また、それら以外にも金属にはない独自の特性があり、構造設計や性能向上に直結する利点が多い。ここでは代表的な6つの特徴について紹介する。

軽量性

CFRPの大きな特徴の一つは軽量性である。比重は鉄の約4分の1、アルミニウムの約3分の2と非常に軽いため、従来の金属材料と比較して大幅な軽量化が可能である。特に自動車や航空機に利用すると、車体や機体の重量を削減でき、燃費向上や航続距離の延伸に直結する。また、軽量化はエネルギー消費の削減だけでなく、二酸化炭素排出量の低減にもつながり、環境負荷の少ない輸送手段の実現に貢献する。

高強度

CFRPは軽量であるだけでなく、非常に高い強度を兼ね備えている点が大きな特徴である。特に引張強度は代表的な金属材料であるアルミニウム合金を大きく上回り、同じ重量で比較した場合には鉄鋼をも凌駕する性能を発揮する。また、外部からの力によっても変形しにくく、熱による膨張もほとんど見られないため、寸法安定性が高い。この特性は精密な設計や高い剛性が求められる航空宇宙分野や自動車産業において特に有効であり、安全性や信頼性の向上に直結している。

腐食耐性

CFRPは炭素繊維と樹脂を組み合わせた複合材料のため、金属のように酸化や錆が発生せず、高い腐食耐性を備えている。この特性により、海洋構造物や化学プラントなど腐食環境にさらされやすい分野でも利用されている。一方で、紫外線の長期照射や高温環境では樹脂部分が劣化する可能性があるため、表面処理やコーティングなどの対策が必要である。

疲労耐性

4つ目の特徴として、CFRPは繰り返し荷重に対して優れた耐性を持ち、金属のように微細な亀裂が進展して最終的に破壊に至る疲労破壊が起こりにくいという点がある。そのため、航空機や自動車など長期間にわたり繰り返し荷重を受ける構造部材に適している。ただし、炭素繊維と樹脂の界面で剥離が発生したり、層間剥離が生じると、破壊が一気に進行することがあるため注意が必要だ。

設計自由性

CFRPは繊維の配向や樹脂の種類を調整することで、電気特性や熱耐性といった機能を付与できるといった設計の自由性(柔軟性)を持つ。また、金属では加工が難しい複雑な曲面や三次元的な形状も比較的容易に成形できるため、デザイン性や性能を両立させた製品開発が可能となる。この特性は、自動車の軽量ボディや航空機の翼、さらには電子機器の筐体など、多様な分野での応用を後押ししている。

異方性材料

最後に、CFRPは金属のように全方向で均一な性質を示す等方性材料とは異なり、繊維強化の方向によって強度や剛性が大きく変化する異方性材料という特徴がある。例えば、炭素繊維を一方向に配置すればその方向に対して非常に高い強度を発揮するが、垂直方向には強度が低下する。この特性を活かして、用途に応じて繊維の配向や積層構造を最適化することで、求められる性能を持つ部材を設計できる。

CFRPと金属材料の違い

CFRPと金属材料には性質の違いがあり、特に重量や強度のバランス、そして耐久性や維持コストの観点で大きな差がある。

重量と強度

CFRP(炭素繊維強化プラスチック)は、比重が約1.6 g/cm³と非常に軽く、鉄鋼の約5分の1、アルミニウムの約3分の2の重さしかない。にもかかわらず、引張強度は2,000〜6,000 MPaに達し、構造用鋼材やアルミ合金を大きく上回る。比強度で比較すれば鉄鋼の約7倍、アルミの約3倍と優れ、軽量かつ強靭な構造を実現できる。ただしCFRPは繊維方向には極めて高い強度を持つ一方、垂直方向の強度は樹脂に依存するため金属ほど強くなく、また金属のように塑性変形で衝撃を吸収する性質が乏しい。

材料比重 (g/cm³)引張強度 (MPa)比強度特性・注意点
CFRP約1.62,000〜6,000鉄の約7倍、アルミの約3倍軽量かつ高強度。繊維方向に強いが垂直方向は樹脂依存。塑性変形が乏しく衝撃吸収性に弱い。
鉄鋼約7.8400〜800基準値重いが方向性による強度差が少なく、衝撃を塑性変形で吸収できる。
アルミ合金約2.7300〜600鉄の約1.5倍軽量で加工しやすいが、強度は鉄やCFRPに劣る。

耐久性とメンテナンスコスト

CFRPは錆や腐食が発生しないため、湿気や塩害といった過酷な環境下でも劣化しにくく、金属材料に比べて高い耐久性を持つ。また、疲労耐性にも優れ、繰り返し荷重に対しても亀裂が発生しにくい特徴がある。そのため交換頻度が少なく、長期的にみるとライフサイクルコストの低減につながる。一方で、CFRPは破損した場合の修理が難しく高度な技術と費用が必要になる。

これに対し金属材料は、錆や腐食が避けられず定期的なメンテナンスが必要で、繰り返しの使用で亀裂が生じやすい。しかし、修理や補修は比較的容易で初期コストも安価である。結果としてCFRPは導入時には高コストであるが、長期的には維持費の抑制により全体コストを低減できる可能性が高い。

項目CFRP(炭素繊維強化プラスチック)金属材料(鉄・アルミなど)
耐久性錆や腐食がなく、湿気や塩害に強い。疲労耐性が高く亀裂が起こりにくい錆や腐食が発生しやすく、疲労によって亀裂が進展しやすい
メンテナンス交換頻度が少なく長寿命だが、破損時の修理は難しく高コスト定期的なメンテナンスが必要だが、修理や補修は比較的容易
コスト初期コストは高いが、ライフサイクル全体では安くなる可能性がある初期コストは安いが、維持管理費がかかり長期的にはコストが増大

CFRPの主な用途

CFRPは軽量かつ高強度という特性から幅広い分野で活用されている。ここでは、自動車や航空宇宙、さらには日常生活に関わる分野まで、代表的な用途を4つ紹介する。

自動車・次世代モビリティ

CFRPは自動車や次世代モビリティ分野で特に注目されている材料である。比重が鉄の約4分の1と軽量でありながら高い強度を持つため、車体重量の削減に大きく貢献する。車体を軽くすることで燃費や電気自動車の航続距離を改善でき、環境負荷の低減にもつながる。

また、従来の金属では難しかった複雑な形状や曲面デザインの実現も可能であり、空力性能やデザイン性の向上にも寄与する。さらに、CFRPは腐食耐性に優れているため、長期的な耐久性も期待できる。ただし高コストや加工難易度の高さが普及を妨げているものの、高級車やスポーツカーをはじめ、今後は量産車やドローン、次世代の移動体に広がっていくと考えられる。

航空・宇宙

CFRPは航空・宇宙分野においても欠かせない材料となっている。航空機においては機体の軽量化が燃費効率や航続距離の改善に直結するため、CFRPの比強度の高さが大きな利点となる。例えば、最新の旅客機では翼や胴体にCFRPが大規模に採用されており、従来のアルミ合金構造と比べて燃料消費を大幅に削減している。また、腐食に強い特性を活かし、過酷な環境にさらされる外装や内部構造材にも適している。

宇宙分野では、打ち上げ時の強い加速度や振動に耐える強度が必要でありながら、重量を最小限に抑える必要があるため、CFRPはロケットや人工衛星の構造材に広く利用されている。軽量で高強度、かつ設計自由度が高いという特性が、航空・宇宙産業の発展を支える基盤となっている。

電気・精密機器

電気・精密機器分野においてもCFRPは重要な役割を果たしている。軽量かつ高剛性という特性は、電子機器の筐体や内部部品に用いることで、小型化と耐久性の両立を実現する。例えば、ノートパソコンやスマートフォンの筐体に採用することで、持ち運びやすさを高めつつ衝撃や歪みに強い構造を実現できる。

また、熱膨張が小さいため精密な寸法安定性が求められる光学機器や半導体製造装置にも適している。他にも、電磁波を通しやすい特性を持つため、金属に比べて電波の遮蔽や干渉を受けにくく、通信機器やドローンなどの分野でも活用が進んでいる。

レジャー・スポーツ

最後に、CFRPはレジャーやスポーツの分野でも幅広く利用されている。軽量で高強度という特性は、ゴルフクラブやテニスラケット、自転車フレームなどの競技用具に採用され、選手のパフォーマンス向上に直結する。例えば自転車では、CFRPフレームを用いることで重量を大幅に減らしつつ、ペダリング時の力を効率的に伝える剛性を確保できる。

またスキーやスノーボードでは、しなやかさと強度のバランスを活かし、操作性や耐久性を高めている。さらに、釣り竿やカヌー、ヨットのマストといったレジャー用品にも用いられ、耐久性と扱いやすさを両立させている。

CFRPにおける課題

CFRPは優れた性能を持つ一方で課題も多い。ここでは、製造やリサイクルの観点から特に重要な3つの課題を紹介する。

製造コストと生産性

CFRPにおける大きな課題の一つは製造コストと生産性である。炭素繊維自体の製造には高温での焼成処理が必要となり、工程が多段階かつエネルギー消費も大きいため原材料価格が高い。さらに、それを樹脂と複合化するプロセスも複雑であり、特に熱硬化性CFRPではオートクレーブによる高温高圧下での成形が不可欠となる。

この方法は品質の高い製品を実現できる一方で、成形に長い時間を要し、サイクルタイムが長いため大量生産には適さない。自動車や家電といった大量消費市場で広く普及させるには、生産効率の改善や代替的な製造技術の開発が欠かせない状況である。

加工の難しさ

2つ目の課題として、加工の難しさが挙げられる。CFRPは強度が高く耐摩耗性にも優れる一方で、その特性が加工の難しさにつながっている。切削加工では繊維が硬いため工具の摩耗が激しく、寿命が短くなるうえ、層間剥離が起こりやすいため高精度な仕上げが難しい。

また、複雑な形状の製造では繊維の配向が乱れたり樹脂の流動性が不均一になったりすることで、設計通りの性能を得にくい。さらに、金属のように溶接や塑性加工ができないため、部品の接合や修理は制約が多く、損傷時の補修には高度な技術とコストが必要となる。こうした要因から、CFRPの普及には加工技術の改良が欠かせない。

リサイクルの困難さ

3つ目の課題として、リサイクルが難しい点が挙げられる。CFRPは炭素繊維と樹脂が強固に結合しているため、使用後の分離が難しく、多くが埋め立て処分されているのが現状である。リサイクル手法としては、粉砕による再利用、熱分解で樹脂を除去して繊維を回収する方法、化学分解によって樹脂を分離する方法などがある。

しかし、粉砕では繊維が短くなり強度が著しく低下し、熱分解は高温処理によるエネルギー消費やCO₂排出が問題となる。化学分解は比較的繊維を保持できるが、薬品コストや処理の安全性が課題である。持続可能な材料利用の観点からも、効率的かつ環境負荷の少ないリサイクル技術の確立が不可欠である。

CFRPに関する企業・メーカー

最後に、CFRPの分野をリードする企業として代表的な4社を紹介する。

東レ株式会社

東レ株式会社は、1926年創業の日本を代表する総合化学メーカーであり、繊維やプラスチック、化成品、環境関連事業まで幅広い分野を展開している。中でも炭素繊維複合材料事業は世界的に高いシェアを誇り、炭素繊維やプリプレグ、織物といった基材から最終製品となる成形品までを一貫して取り扱っている。

航空機や自動車などの軽量化による燃費向上や省エネルギーに加え、天然ガスや水素タンク、さらには風力発電ブレードといった再生可能エネルギー用途への展開も進んでおり、環境対応型素材の提供を通じて持続可能な社会の実現に貢献している企業である。

三菱ケミカル株式会社

三菱ケミカル株式会社は、三菱ケミカルグループの中核企業として総合化学事業を展開する大手化学メーカーであり、先端素材や環境ソリューションに強みを持つ。炭素繊維分野では、トウや織物、プリプレグといった基材からCFRP成形品まで幅広く手掛けている。

特に熱硬化性・熱可塑性プリプレグやCF-SMC(炭素繊維シート成形複合材)など、多様な製品群を展開し、鉄の約10倍の強度や優れた耐腐食性、複雑形状への対応力をアピールしている。これにより、航空宇宙、自動車、スポーツ用品といった分野に応用範囲を拡大し、軽量化と高機能化を実現する素材供給を通じて社会課題の解決に貢献している企業である。

積水化学工業株式会社

積水化学工業株式会社は、大阪に本社を置く総合化学メーカーであり、住宅、環境・ライフライン、高機能プラスチックスなど幅広い事業領域を展開している。同社はCFRP分野にも注力しており、熱可塑性樹脂と炭素繊維を連続成形する新技術を確立し、生産効率と設計自由度を高めている。

また、独自の「ST-Layer」と呼ばれるフォームコアを挟んだ複合構造CFRPを提供しており、軽量で高剛性に加え、振動抑制機能を備えた材料設計を可能にしている。これにより、自動車や輸送機器、産業機械などの分野での軽量化や性能向上に貢献しており、持続可能な社会の実現に向けた素材開発を進める企業である。

株式会社三協製作所

株式会社三協製作所は、日本に拠点を置く精密加工・製造分野の企業であり、金属加工や機械設計を基盤としつつ、CFRP分野にも強みを持つ。設計から成形、加工、組立までを一貫して行える体制を整えており、材料選定から製品化までを総合的に対応できる技術力を有している。

同社は応力解析や変形解析に加え、振動・衝撃、疲労・クリープ解析などのシミュレーション技術に長けており、信頼性の高い製品開発を支えている。特にオートクレーブ成形技術を活用した中空構造や特殊形状の開発に強みを持ち、航空機部材や産業機械部品など高い精度と強度が求められる領域で多くの実績を有する企業である。

まとめ

CFRP(炭素繊維強化プラスチック)は、軽量性と高強度を兼ね備えた次世代の構造材料として、自動車、航空宇宙、スポーツ用品、精密機器など幅広い分野で採用が進んでいる。その特性により燃費向上や環境負荷低減、設計自由度の拡大に大きく寄与しており、今後の社会実装においてもますます重要性が高まると考えられる。

しかし一方で、製造工程が複雑でコストが高いこと、大量生産に不向きであること、また廃棄後のリサイクルが困難であるといった課題は依然として残されている。これらの問題を克服するためには、新しい成形技術や効率的な生産プロセスの確立、環境に配慮したリサイクル手法の開発が不可欠である。CFRPは可能性の大きな素材であり、その課題解決の取り組み自体が新たな産業やビジネスのチャンスを生み出すといえる。

当社では、2025年10月28日に東海大学工学部 機械システム工学科 加藤准教授をお招きし、CFRPの特性や最新動向、現在の応用/課題点など現場で役立つ知見を講演いただく予定です。これからCFRPの活用を検討される方、あるいは既に取り組んでいて課題を感じている方は、ぜひご参加ください。

10月28日開催のセミナー

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