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TNFDとは?TCFDとの違いや開示フレームワーク、取り組み事例

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企業が自然資本との関わりを無視できない時代となり、生物多様性や水資源、土地といった自然環境を事業リスクとして適切に管理することが、サステナビリティ経営の重要な要素となっている。

その中で注目を集めているのがTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)であり、企業が自然への依存や影響を把握し、財務情報として開示するための実践的な枠組みとして導入が進んでいる。TNFDとは何か、そして企業はどのようにこのフレームワークを活用すべきかを理解することは、今後の事業戦略に直結する。

本記事ではTNFDの基本概念からTCFDとの違い、企業が対応すべき開示項目、さらには実際の取り組み事例までを整理して解説する。

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)とは?

TNFDとは、「Task force on Nature-related Financial Disclosures」の略で、企業や金融機関が自然資本への依存度や事業活動による自然への影響、そしてそこから生じるリスクと機会を把握し、財務情報として開示することを目的に設立された国際的枠組みを指す。

TNFDは日本語で「自然関連財務情報開示タスクフォース」を意味し、気候関連情報開示を推進するTCFDに続く新たなイニシアチブとして位置づけられ、自然資本を企業経営や投資判断に組み込むことを求める点が特徴だ。

TNFDは2020年から「世界自然保護基金(WWF)」「国連開発計画(UNDP)」「国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)」「Global Canopy(英国のNGO)」などが中心となって準備を開始し、同年7月に設立構想が公表された。

その後、金融機関や企業、規制当局からなる非公式作業部会が発足し、2021年6月に正式なタスクフォースとして活動を開始した。TNFDは、森林、土地、海洋、淡水といった自然資本を対象とし、企業がそれらへの依存や影響を体系的に評価し開示するための指針を提供することで、自然損失を抑制し持続可能な経済活動への移行を促す役割を担っている。

TNFDフォーラムとTNFDアダプター(adopter)の役割

TNFDフォーラムは、TNFDの枠組み形成を支える多様なステークホルダーが参加する連携組織であり、政府機関、企業、金融機関、研究機関などが技術的知見や実務的視点からフィードバックを提供する役割を担う。これにより、実務に適した国際基準としてのTNFDの精度向上が図られている。

一方、TNFDアダプターは、TNFD最終提言v1.0版(2023年9月公開)を基準として自然関連リスクや機会に関する情報開示を行う意思を公式に表明した企業・団体であり、透明性の高い自然関連情報開示に先行して取り組む主体として位置づけられる。

TNFDとTCFDの違い

TNFDとTCFDはいずれも、企業や金融機関に対して環境に関するリスクと機会を財務情報として開示することを求める国際的枠組みだが、対象とする領域に明確な違いがある。

TCFDは気候変動に特化した枠組みで、温室効果ガス排出量の把握や、豪雨・洪水・猛暑といった物理的リスク、脱炭素政策に伴う移行リスクなど、気候変動が事業へ及ぼす財務影響を評価し開示することが中心となる。

一方、TNFDは生物多様性の劣化、水資源の枯渇、土壌の劣化、生態系サービスの喪失といった自然資本に関わるリスクと機会を対象とする。企業が自然資本にどの程度依存し、どのような影響を与えているかを把握し、その結果として生じる財務的影響を明確化することを目的としている。

つまり、TCFDは「気候」を軸にした枠組み、TNFDはより広範な「自然資本」を対象とする点に本質的な違いがあるといえる。

項目TNFD(自然)TCFD(気候)
対象領域自然全般
(生物多様性・水・土地・生態系)に関するリスクと機会
気候変動
(温室効果ガス排出・移行/物理リスク)
主な目的自然資本に依存・影響するリスクを可視化し、企業の持続的価値創造を促す気候変動による財務影響を把握し、低炭素経済への移行を促す
アプローチLEAP(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)シナリオ分析(1.5℃、2℃など気候シナリオ)
開示の柱ガバナンス、戦略、リスク&影響管理、指標・目標(TCFDに準拠)ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標
特徴場所依存性(Location)が重要。自然との相互関係を重視CO₂排出量・気候リスクの財務影響が中心
主な関係者自然資本依存の強い業界(製造業・建設・農林水産・エネルギーなど)排出量の大きい業界(エネルギー・製造業・輸送・金融など)
導入背景生物多様性の損失・水資源問題・自然災害など自然の劣化が企業価値を脅かしている気候変動による規制強化・脱炭素化の必要性・物理リスクの深刻化

TNFDの最新動向

TNFD公式サイトによれば、2025年11月時点でTNFDへの参画組織数は約733組織、参加国・地域は56ヵ国・地域にまで広がっている。地域別にみると、アジア太平洋が370(50%)と首位で、ヨーロッパが235(32%)、中南米・南米が71(10%)と続く。

ちなみに、日本は早期から参画しており、2021年12月には環境省が日本企業や金融機関とタスクフォース間の橋渡し役を果たすフォーラムメンバーになっている。事実、株式会社ブライトイノベーションの調査「TNFDを取り巻く最新動向2025」でも述べられているように、2025年7月時点で日本企業は178社と世界最多のTNFDアダプターを占める。2024年10月時点の133社と比べると、およそ40社以上増加している。

また、2000年にイギリスで設立された国際的な非営利団体CDPは、2024年から質問書をTNFD提言と整合させており、さらに、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)も、その基準の中に自然関連の項目を組み込むことを検討。他の主要な国際的開示基準との連携が進みつつある。

TNFDの最新動向として、国際的な参加規模の拡大が顕著である。TNFD公式サイトによると、2025年11月時点でTNFDに参画する組織は約733に達し、参加国・地域数は56に広がっている。地域別ではアジア太平洋が370組織と全体の5割を占め、次いでヨーロッパが235、南米・中米が71と続く。

日本は導入に積極的な国の一つであり、2021年12月には環境省がTNFDフォーラムに参加し、企業とタスクフォースをつなぐ役割を担っている。さらに、日本企業によるアダプター登録も急増しており、2025年7月時点で178社と世界最多となった。これは2024年10月時点の133社から大幅に増加しており、国内での関心と実務対応が急速に進んでいることを示す。

また、非営利団体CDPは2024年から質問書をTNFD提言と整合させ、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)も自然関連項目の組み込みを検討している。これらの動きは、TNFDが世界的な非財務情報開示の中心基準として位置付けられつつあることを示している。

TNFDの目的

TNFDは、企業や金融機関が自然資本への依存やインパクト、生じるリスクと機会を財務的観点で適切に評価・管理し、その情報を開示するための国際的な枠組みであり、以下の3点が主な目的である。

自然資本・生物多様性の情報開示

1つ目の目的は、自然資本・生物多様性の情報開示だ。自然資本・生物多様性の情報開示とは、企業が自社活動によって自然環境へ与える影響や、逆に自然環境の変化から受けるリスクや機会を体系的に評価し、財務情報として開示することを指す。

水資源、土壌、森林、生態系サービスへの依存度や影響度を可視化することで、事業継続性やサプライチェーンの脆弱性を把握できるようになる点が重要だ。これは環境配慮を表明するだけの取り組みではなく、資本調達の条件、投資家評価、規制対応、ブランド戦略など経営判断に直結する要素であり、企業が長期的な競争力を確保するための基盤となる開示だといえる。

ネイチャーポジティブ(自然再興)への転換

2つ目の目的は、ネイチャーポジティブへの転換である。TNFDが目指すネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失を抑えるだけでなく、自然環境を回復軌道へ導く社会への転換を指す。食料、水、気候調整など人間社会を支える基盤は自然によって成り立っており、その劣化は企業活動や経済にも深刻な影響を及ぼす。

2021年のG7で採択された「2030年自然協約」では、生物多様性の損失を2030年までに止め、反転させることが国際的目標として掲げられた。TNFDは、企業が自然への負荷を減らし、回復に寄与する行動へと転換するための枠組みを提供し、ネイチャーポジティブな社会の実現を後押しする役割を担っている。

投資の促進

そして、最後は投資の促進である。TNFDが投資促進に寄与するのは、企業が自然への依存や影響、そこから生じるリスクと機会を共通フレームワークに基づいて開示することで、投資家の判断精度が大きく向上するためである。

情報の透明性が高まれば、投資家はポートフォリオ全体のリスク評価やシャドープライスの算定を正確に行えるようになり、自然資本を毀損する事業や情報開示が不十分な組織から資金が離れやすくなる。結果として、自然保全や持続可能な事業モデルに取り組む企業へ資本が流入しやすくなり、市場全体として自然に配慮した経済活動を後押しする構造が形成されるといえるだろう。

TNFDの開示項目

開示項目については、2023年にTNFDが公表した「自然関連財務情報開示タスクフォースの提言」で細かく解説されている。ここでは、TNFDの資料をもとに開示項目についてそれぞれ簡単に解説する。

項目詳細
ガバナンスA. 自然関連の依存、インパクト、リスクと機会に関する取締役会の監督について説明する。
B. 自然関連の依存、インパクト、リスクと機会の評価と管理における経営者の役割について説明する。
C. 自然関連の依存、インパクト、リスクと機会に対する組織の評価と対応において、先住民族、地域社会、その他ステークホルダーに関する人権方針とエンゲージメント、および取締役会と経営陣の監督について説明する。
戦略A. 組織が特定した自然関連の依存、インパクト、リスクと機会を短期・中期・長期ごとに説明する。
B. 自然関連の依存、インパクト、リスクと機会が、ビジネスモデル、バリューチェーン、戦略、財務計画に与えるインパクト、および関連する計画や分析について説明する。
C. 自然関連のリスクと機会に対する戦略のレジリエンスについて、さまざまなシナリオを考慮して説明する。
D. 直接操業、および可能な場合は上流・下流バリューチェーンにおいて、優先地域の基準を満たす資産・活動の所在地域を開示する。
リスクと
インパクトの管理
A(i). 直接操業における自然関連の依存、インパクト、リスクと機会を特定・評価・優先順位付けするプロセスを説明する。
A(ii). 上流・下流のバリューチェーンにおける自然関連の依存、インパクト、リスクと機会を特定・評価・優先順位付けするプロセスを説明する。
B. 自然関連の依存、インパクト、リスクと機会を管理するための組織のプロセスを説明する。
C. 自然関連リスクの特定・評価・管理プロセスが、組織全体のリスク管理にどのように統合されているかを説明する。
測定指標と
ターゲット
A. 組織が戦略およびリスク管理プロセスに沿って、マテリアルな自然関連リスクと機会を評価・管理するために使用している測定指標を開示する。
B. 自然に対する依存とインパクトを評価・管理するために使用している測定指標を開示する。
C. 自然関連の依存、インパクト、リスクと機会を管理するためのターゲット・目標と、それに対するパフォーマンスを記載する。

ガバナンス

TNFDにおけるガバナンスの開示では、企業が自然資本に関する課題をどのような体制で監督し、意思決定へ反映しているかを明確に示すことが求められる。

具体的には、取締役会が自然関連リスクと機会をどの程度認識し、経営戦略やリスク管理に対してどのように監督責任を果たしているかを示す必要がある。また、経営陣が自然関連課題にどのように取り組み、組織内で役割分担を行っているのか、さらにステークホルダーとの対話や関与のプロセスをどのように組み込んでいるのかも重要な開示要素となる。

戦略

TNFDにおける戦略の開示では、企業の事業モデルや経営戦略が自然資本にどのように依存し、またどの程度の影響を及ぼしているかを、短期・中期・長期の時間軸で明確に示すことが求められる。

ここでは依存と影響の双方が財務的マテリアリティを持つのか、あるいは企業の外部に対してインパクト・マテリアリティをもつのか、その双方をもつのかを評価し、その結果を戦略上どのように位置付けているのかを説明する必要がある。

リスクとインパクトの管理

TNFDにおけるリスクとインパクトの管理では、企業が自然資本への依存や自社活動による影響をどのような方法で識別・評価し、リスク管理プロセスへ統合しているかを明確に示すことが求められる。

具体的には、自然関連リスクを検出するための評価手法、影響を把握するためのデータ取得プロセス、内部統制との連携状況などを開示し、組織全体の管理体制に自然関連要素がどの程度組み込まれているかを説明する。

測定指標とターゲット

TNFDにおける測定指標とターゲットでは、企業が自然資本への依存や影響を把握するために使用する具体的な指標、設定している自然関連目標、その達成に向けた進捗状況を明確に示すことが求められる。

さらに、気候関連開示で用いられる指標との整合性や相互関係についても説明し、組織が一貫した枠組みで自然と気候の双方を管理していることを示す必要がある。これらの開示は、企業の戦略や管理プロセスが実際にどれほど効果を上げているかを定量的に評価する基盤となり、ステークホルダーに企業のコミットメントと実行力を証明する機能を果たす。

TNFDの開示フレームワーク「LEAPアプローチ」について

TNFDが提唱したLEAPアプローチとは、企業が自然との関わりにおけるリスクと機会を特定・評価・管理するための統合的な評価手法のことだ。このアプローチには全部で5つのプロセスが存在する。

Scoping(スコープの設定)

TNFDの開示フレームワーク「LEAPアプローチ」における「Scoping(スコープの設定)」とは、実際に自然関連リスクや機会の分析を始める前段階として、どこまでの範囲を対象にするかを定める重要な作業である。

ここではまず自社のビジネスモデルやバリューチェーン全体を洗い出し、どの拠点やサプライヤー、工程が自然資本と関わる可能性が高いかを仮説として設置する。加えて、分析のために必要となるデータ、人員、時間、予算などのリソースを整理し、目標やスケジュールを経営層と評価チームですり合わせる。

この段階で作業対象の地理的範囲や業務単位、調査対象となる自然資本の種類などを明確に定めることで、その後のステップを効率的かつ実効的に進めやすくなる。

Locate(自然との接点の発見)

Locate(自然との接点の発見)では、Scopingで整理した事業範囲にもとづき、自社が自然資本とどの地点で関わっているのかを具体的に特定する作業を行う。事業拠点やサプライチェーンの所在地域を対象に、森林、湿地、河川、生態系サービスが豊富なエリアなどを調査し、自社活動が依存している自然要素や影響を及ぼし得る場所を抽出する。

さらに、地理情報データや既存の生態系評価ツールを活用し、自然資本との接点が大きい地域を優先度の高い分析対象として位置づける。このステップにより、次段階での依存・影響評価を行うための具体的な対象地点が明確になり、精度の高い自然関連リスク分析の基盤が整う。

Evaluate(依存とインパクトの診断)

Locateフェーズで見つけた優先地域で、自社が自然から受ける依存性と、自社が自然に与えている影響(インパクト)を評価。例えば、サプライチェーンで得ている生態系サービスを定義し、土地利用の変化や資源採取、汚染などが自然にどのような影響を与えているかを定性的・定量的に診断する。

Evaluate(依存とインパクトの診断)では、Locateで特定した優先地域を対象に、自社が自然から受けている依存と、自社活動が自然に及ぼしている影響を体系的に評価する。

具体的には、原材料調達で依存している水供給や土壌形成などの生態系サービスを整理し、土地利用変化、資源採取、排水・排出による汚染といった事業活動が生態系に与える変化を定性的・定量的に診断する。また、生物多様性の劣化や自然資本の劣化が自社の事業継続にどの程度影響するかも分析する。

このステップにより、自然資本との相互作用を科学的根拠に基づいて把握し、次段階のリスク・機会評価に必要な基礎情報を確立することができる。

Assess(リスクと機会の評価)

明らかになった依存性と影響をもとに、それらがもたらす自然関連のリスクおよび機会を評価する。具体的には、リスクや機会を財務インパクトと発生可能性の観点で優先順位付けを行い、短期・中期・長期と時間軸別に割り当てていく。

Assess(リスクと機会の評価)では、Evaluateで把握した自然への依存と影響を踏まえ、それらが企業にもたらすリスクと機会を財務的観点から評価する。具体的には、自然資本の劣化によって発生し得るコスト増加や供給不安、規制強化といったリスク、また自然再興や新市場創出につながるビジネス機会を抽出する。

そのうえで、各リスク・機会がもたらす財務インパクトの大きさと発生可能性を評価し、優先順位を付ける。さらに、それらが短期・中期・長期のどの時間軸で顕在化するかを整理することで、経営戦略に反映すべき重要度を明確化し、次の対応策立案につなげる。

Prepare(対応し報告するための準備)

最後に、Prepare(対応し報告するための準備)では、Assessで特定したリスクや機会を踏まえ、実際の戦略策定と開示に向けた体制づくりを進める。

具体的には、自然関連のKPIや達成すべきターゲットを設定し、経営層の監督や担当部署の役割分担などガバナンス体制を整える。また、開示レポートの作成に必要なデータ収集や内部プロセスの整備を行い、外部ステークホルダーへ一貫性ある情報を提示できる状態を構築する。

なお、すべての領域に同時着手するのではなく、依存度やリスクが高い領域から優先的に対応を進めることが現実的だ

TNFDを開示している企業例

最後に、実際にTNFDを開示している企業事例について紹介する。

三菱マテリアル

三菱マテリアルは、非鉄金属・セメント・金属加工などを中心とする総合素材メーカーであり、国内外に製錬所や発電所、水処理施設など自然環境との接点が大きい事業拠点を多く持つ。同社はこれらの事業特性を踏まえ、TNFDが推奨するLEAPアプローチに基づいた分析を段階的に進めている。

2023年度には、直島製錬所、小名浜製錬所、駒ヶ川新電力所を試行対象として、自然資本への依存度や生態系への影響、洪水・水資源制約といった物理的リスク、規制強化などの移行リスク、そして自然資源の循環利用や環境配慮型製品の需要増といった機会を整理した。

2024年度からは分析対象を主要事業やその他の重要拠点にも拡大し、事業横断で自然関連リスクと機会を評価できる体制を構築している。この取り組みによって、同社は事業ポートフォリオ全体を俯瞰しながら、自然資本と事業活動の相互作用を一貫して把握する枠組みを整備したといえる。

富士通グループ

富士通グループは、ICTサービスやソリューションをグローバルに展開する日本の大手IT企業グループであり、サステナビリティ経営を重点領域の一つとして位置付けている。2023年12月にはTNFDへの賛同を表明し、「環境行動計画(2023〜2025年度)」において自然共生(生物多様性の保全)を重要テーマとしている明確化した。

具体的な数値目標として、基準年度である2020年度比で、自社およびサプライチェーン全体の活動による生物多様性への負の影響を2025年までに12.5%、2030年までに25%以上低減することを掲げ、同時にネイチャーポジティブな取り組みの拡大を図っている。

拠点単位の取り組みとしては、静岡県の沼津工場で約53ヘクタールの敷地のうち約80%を緑地として管理し、生態系保全と地域住民の環境学習の場として機能させてきた。2023年10月には、この沼津工場が環境省の「自然共生サイト」に認定されており、TNFDの考え方を具体的な事業・拠点運営に反映させている事例といえる。

東レグループ

東レグループは、合成繊維・樹脂・先端材料・化学品などを中心とした事業を展開する日本の大手素材メーカーであり、グローバルに製造拠点を持つ企業として環境・社会課題への対応を経営の重要要素に位置付けている。

同社はTNFDの枠組みを早期に採用し、事業横断・拠点横断の視点から自然関連リスクと機会の把握を進めている点が特徴である。特に、事業特性を踏まえた自然関連の重要課題を体系的に分類し、「環境負荷物質の削減」「水の利用効率向上」「温室効果ガス削減」「循環型社会の実現」「天然資源利用の削減・効率化」「自然・生態系保全」の六つを中核領域として設定している。

また、TNFDのLEAPアプローチを活用し、各拠点における自然との接点を把握したうえで優先度付けを行い、拠点レベルで実効性のある指標や目標を設定する体制を構築している。これにより、事業ポートフォリオ全体で自然関連のリスクと機会を可視化し、経営判断へ反映する基盤を整備した点が、同社のTNFD実装の特徴となっている。

まとめ

東レグループや三菱マテリアルなどの先行事例が示すように、TNFDの取り組みは、もはや環境対策ではなく、企業のリスク管理や競争戦略にまで及んでいる。自然環境の悪化がサプライチェーンの寸断や資源コストの高騰を招く時代において、TNFDへ対応することは組織のレジリエンスと長期的な企業価値を測る試金石となる。

改めて、自社の事業活動と自然資本との接点を見つめ直し、このグローバルな潮流を事業革新の機会として捉えることを推奨したい。TNFDの開示を通じて、自然にとって「ネガティブ」な影響を「ポジティブ」へと転換し、持続可能な未来社会と企業成長を両立させるための第一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。

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