電波と光の境界に位置するテラヘルツ波は、これまで技術的制約から活用が難しい未踏領域とされてきた。しかし近年、半導体やフォトニクス技術の進化により、通信、検査、医療など幅広い分野で現実的な応用が見え始めている。
一方で、装置コストや出力、環境条件への依存といった課題も依然として残る。本記事では、基礎的な原理を整理しつつ、なぜ今この電磁波が注目されているのか、その特性と可能性、さらに実用化を進める上で直面する課題までを解説する。
目次
テラヘルツ波とは?
テラヘルツ波とは、電磁波スペクトルにおいてマイクロ波と赤外線の中間領域に位置する電磁波を指す。その周波数はおよそ0.1THzから10THz、波長は約3mmから0.03mmの範囲に相当する。
この領域は電波技術と光技術のいずれでも扱いにくいことから、長らく「テラヘルツ・ギャップ」と呼ばれる未開拓分野であった。従来の電子回路では周波数が高すぎ、一方で光学技術では周波数が低すぎるため、安定した発生や高感度な検出が困難だったためである。
テラヘルツ波研究の起源は20世紀初頭に遡り、1950年代から1960年代にかけて電波天文学の分野で宇宙背景放射の観測を目的として関連技術が発展した。大きな転機となったのは1980年代後半以降で、超短パルスレーザー技術の進展により、レーザー光を用いてテラヘルツ波を発生・検出する手法が確立されたことだ。
1980年代、ベル研究所のデビッド・H・オーストン氏らが提案した光伝導スイッチは、テラヘルツ時間領域分光法の基礎となった技術である。さらに1990年代半ばには、鮮明なテラヘルツ・イメージングが実証され、非破壊検査や医療応用への可能性が注目を集めた。
2000年代以降は装置の小型化と低コスト化が進み、テラヘルツ波は基礎研究の対象から、実用化を視野に入れた技術領域へと移行しつつある。
周波数帯ごとの分類と特性

電磁波は周波数と波長によって性質が大きく異なり、用途も明確に分かれる。まず周波数が低く波長が長いマイクロ波は、おおよそ300MHzから300GHzの範囲を指す。マイクロ波は波長が長いため空気や雲、建材などを比較的よく透過し、減衰が小さいという特性を持つ。
この性質を活かし、電子レンジでは水分子の回転運動を励起して加熱を行い、通信分野では直進性と到達距離の長さを活かして衛星通信やレーダー、Wi-Fiなどに利用されてきた。
一方、周波数が高く波長が短い赤外線は、可視光の外側に位置し、波長で言えば約0.7マイクロメートルから1ミリメートル、周波数では約300GHzから数百テラヘルツに及ぶ。赤外線は物質中の分子振動や回転と強く相互作用するため、熱として認識されやすく、暖房機器、非接触温度計、赤外線カメラによる熱画像計測などに広く用いられている。
テラヘルツ波が注目される理由
近年、テラヘルツ波が注目されるようになった理由は、電波と光の中間に位置することで両者の利点を併せ持ち、従来技術では得られなかった情報を取得できる点にある。
電波のように紙やプラスチック、衣類などの非金属材料を透過しつつ、赤外線に近い周波数帯であるため、分子の回転や振動に由来する固有の吸収特性を捉えることが可能だ。この性質により、物質の内部構造を可視化しながら、同時に成分や状態を識別することができる。
また、近年は半導体やフォトニクス技術の進歩によって、発生・検出装置の小型化や高性能化が進み、研究用途にとどまらず実用化が現実的な段階に入ったことも大きい。非破壊検査や品質管理、医療診断、安全検査、さらには次世代無線通信まで応用範囲が広がっており、透過性と分光能力を兼ね備えた新しい計測・通信手段として期待が急速に高まっている。
テラヘルツ波の市場規模
テラヘルツ波を活用する技術の市場規模は、近年の研究開発の進展とともに着実な拡大局面に入っている。Fortune Business Insightsの調査によれば、世界のテラヘルツ技術市場は2025年に約12億7,290万米ドルと推定され、2026年には約14億9,180万米ドル、2034年には約52億5,510万米ドルへと成長すると予測されている。
年平均成長率は二桁に達しており、未成熟であった技術分野が本格的な産業段階へ移行しつつあることを示している。地域別では北米が2025年時点で約32.2%のシェアを占め、航空宇宙、防衛、通信、医療といった分野での先行導入が市場拡大を牽引している。
また、日本市場も成長余地は大きい。IMARCグループの分析によると、日本のテラヘルツ技術市場は2025年に約6,500万米ドル規模であり、2034年には約3億6,600万米ドルまで拡大すると見込まれている。
この背景には、通信や非破壊検査、品質管理といった産業用途に加え、国家戦略としての位置づけがある。総務省が策定した「Beyond 5G推進戦略」では、テラヘルツ帯を含む高周波数技術が6G実現の鍵とされ、「オール光ネットワーク(APN)」や「非地上系ネットワーク(NTN)」、「無線アクセスネットワーク(RAN)」の研究開発と国際標準化が進められている。
こうした政策支援と産業ニーズの両輪によって、テラヘルツ波市場は今後さらに存在感を高めていくと考えられる。
テラヘルツ波の特徴
テラヘルツ波の特徴は、主に以下の5つが挙げられる。
人体への直接的な危険性は極めて低い
1つ目のテラヘルツ波の特徴は、人体への直接的な危険性が極めて低い点にある。一般に健康影響が問題となるX線やガンマ線は、原子や分子から電子を弾き飛ばす電離放射線であり、DNA損傷などを引き起こす可能性がある。
一方、テラヘルツ波は可視光よりも光子エネルギーがはるかに低く、分子結合を切断する能力を持たない非電離放射線に分類される。そのため、細胞構造を直接破壊するような反応を起こす可能性は理論的にも極めて小さい。
さらに、テラヘルツ波は水分に強く吸収される性質を持つため、人体に照射された場合でも主に皮膚表面で吸収または反射され、体内深部まで到達しにくい。
影響として考えられるのは局所的な温度上昇、いわゆる熱作用であるが、研究用途や産業用途で用いられる出力レベルは国際的な電波防護指針に基づき厳格に管理されており、組織を損傷させる水準には達しないとされている。このため、適切に管理された条件下では、テラヘルツ波は安全性の高い電磁波と評価されている。
指紋スペクトルをもつ
2つ目に、テラヘルツ波の重要な特徴として、物質ごとに固有の指紋スペクトルをもつ点が挙げられる。指紋スペクトルとは、テラヘルツ帯の電磁波が物質に照射された際、分子間相互作用や結晶格子の振動、回転運動に対応して現れる特有の吸収パターンを指す。
これらの低エネルギー振動は、可視光や赤外線では捉えにくく、同じ化学式を持つ物質であっても結晶構造や配列の違いによって異なるスペクトルとして現れる。そのため、従来の分光法では識別が困難だった多形結晶の判別や、医薬品における有効成分の結晶状態の違いを高精度に見分けることが可能となる。
また、物質を分解せずに外部から測定できるため、品質管理や真贋判定、危険物検知などにおいて高い有用性を持つ。テラヘルツ波がもつ指紋スペクトル特性は、化学的・構造的情報を同時に取得できる点で、分析技術の高度化を支える中核的な要素である。
超高速・大容量の無線通信が可能
3つ目に、超高速かつ大容量の無線通信を実現できる点である。現在主流のWi-Fiや5Gで利用されているマイクロ波やミリ波と比べ、テラヘルツ波は周波数が桁違いに高く、利用可能な帯域幅が飛躍的に広い。
通信理論上、帯域幅が広いほど一度に送信できる情報量は増加するため、テラヘルツ波を用いることで、毎秒100ギガビットから毎秒1テラビット級のデータ伝送が可能になるとされている。これは現在の無線通信を大きく上回り、条件次第では光ファイバーに匹敵する性能である。
こうした特性は、超高精細映像のリアルタイム伝送や、大規模データを扱うデータセンター間通信、将来の6G移動通信における基幹技術として期待されている。無線でありながら有線並みの通信容量を実現できる点が、テラヘルツ波が次世代通信技術として注目される理由ともいえる。
物質を透過できる
4つ目のテラヘルツ波の特徴が、特定の物質を透過できる性質である。紙、プラスチック、セラミックス、繊維などの非金属材料に対して高い透過性を示すため、箱や封筒を開封することなく内部の状態を外部から観察できる。これにより、製品内部に生じた微細な亀裂や異物混入、層構造の乱れなどを非破壊で検査することが可能となる。
一方で、テラヘルツ波は水分や金属に強く吸収・反射される特性をもつため、液体が多い部分や金属部分は透過しにくいが、逆にこの性質を利用することで、水分量や湿度分布の変化を高感度に検出できる。
食品や建材の含水率評価、医薬品や工業製品の品質検査など、対象を傷つけずに内部情報を取得できる点が大きな利点であり、従来技術では困難だった非破壊・非接触検査を可能にしている。
直進性が高い
最後のテラヘルツ波の特徴として挙げられるのが、直進性の高さである。一般に電磁波は波長が長いほど回折が起きやすく、障害物の影に回り込む性質をもつ。一方、テラヘルツ波は電波よりもはるかに波長が短く、光に近い性質を示すため、進行方向が拡散しにくい。
その結果、エネルギーを特定の方向へ鋭く集中させることが可能となる。この直進性により、不要な方向への漏れが少なく、狙った位置に高い空間分解能で信号を届けたり、反射波を精密に捉えたりできる。
高精度な距離測定や位置特定、微細構造の計測においては、信号のぼやけが少ないことが大きな利点となる。従来の電波では難しかった精密制御を可能にする点で、テラヘルツ波の直進性は重要な物理的特性といえる。
テラヘルツ波のデメリット・課題
一方で、遮蔽物に弱い、検出技術が未成熟、電力効率が低いなどといった問題点や課題も存在している。
遮蔽物(障害物)に弱い
テラヘルツ波における1つ目の課題は、遮蔽物に弱い点である。テラヘルツ波は波長が短く光に近い性質をもつため、マイクロ波のように障害物の背後へ回り込む回折がほとんど起きない。壁や建物はもちろん、街路樹や看板、人や自動車といった身近な物体に当たると、多くが反射されるか物質内部で吸収され、信号が急激に減衰してしまう。
特に都市環境では、環境が常に変化するため、通信経路が瞬間的に遮断される可能性が高い。この性質は、高い指向性や精密な制御が可能である反面、見通しの良い直線的な空間を前提とした利用を求めることになるため、安定した運用には中継点の高密度配置や環境設計の工夫が不可欠となり、実用化における重要な制約条件となっている。
検出が難しい
2つ目に、テラヘルツ波の実用化を難しくしている要因の一つが、検出の難しさである。従来の電子回路は、テラヘルツ帯に特有の極めて高速な電磁振動に対応できず、トランジスタのスイッチング速度が物理的な限界に達してしまう。
一方、赤外線や可視光向けの光学センサーでは、テラヘルツ波の光子エネルギーが小さすぎるため、十分な感度で信号を捉えられない。このため、電子工学と光学のいずれの技術体系でも扱いにくい周波数帯とされてきた。
近年は、超短パルスレーザーを利用した光伝導スイッチや、共鳴トンネルダイオード、ショットキーバリアダイオードなど、室温動作が可能な半導体検出器の開発が進んでいるが、検出効率や信号対雑音比は依然として十分とは言えず、高感度かつ安定した検出技術の確立が大きな課題である。
電力効率が低い
また、もう1つのテラヘルツ波の実用化を妨げる課題が、電力効率の低さである。
マイクロ波帯では、半導体増幅器を用いて電波を比較的高効率に生成できるが、周波数がテラヘルツ帯に近づくにつれて状況は一変する。半導体内部を移動する電子の応答速度が電磁波の振動に追いつかなくなり、入力したエネルギーの多くが電波として放射されず、熱として失われてしまうためである。
この結果、出力されるテラヘルツ波は非常に微弱になり、十分な強度を得るには大電力の投入が必要となる。遠距離通信や高分解能イメージングでは、冷却装置を備えた大型設備が不可欠となり、装置の小型化や省エネルギー化を妨げる要因となっている。
近年は新材料や新構造デバイスの研究が進んでいるが、電力効率の根本的な改善は依然として重要な技術課題である。
法制度が整備されていない
最後のテラヘルツ波の実用化を進める上での課題が、法制度や国際的なルールが十分に整備されていない点である。電磁波は公共資源として管理されており、既存の電波帯では用途や事業者、出力条件などが厳格に定められてきた。
しかし、テラヘルツ波は比較的新しい利用領域であるため、各国での周波数割当や運用ルールが統一されておらず、国際標準も確立途上にある。とくに6Gなどの次世代通信で本格的に活用するには、どの帯域をどのような条件で利用するかについて国際的な合意形成が不可欠となる。
また、医療診断やセキュリティ検査といった分野で用いる際には、人体曝露に関する安全基準を法的に明確化し、社会的な信頼を確保する必要がある。技術の進展に制度整備が追いついていない現状が、普及を制約する要因となっている。
テラヘルツ波の用途例
テラヘルツは、実に幅広い領域での活用が進んでいる。ここでは、いくつかの代表的な用途例について解説したい。
通信(6G)分野
1つ目のテラヘルツ波の用途は、次世代通信規格である6Gにおいて注目されている。現在の5Gでは主に数十GHz帯のミリ波が用いられているが、テラヘルツ帯を活用することで利用可能な帯域幅は桁違いに拡大する。
通信における伝送容量は帯域幅に比例するため、毎秒数百ギガビットからテラビット級の超高速通信が現実的となり、無線でありながら光ファイバーに匹敵する性能が期待されている。これにより、4Kや8K映像の同時多重配信や、大規模データを扱うクラウド処理の遅延低減が可能になる。
さらに、リアルタイム性が極めて重要な遠隔操作や、仮想空間と現実を高度に融合させた没入型サービスの基盤としても不可欠な技術となる。6Gでは通信そのものが社会インフラとして高度化するため、テラヘルツ波はその実現を支える要となる。
セキュリティ・検査分野
2つ目の用途として、セキュリティおよび検査分野において非接触かつ非破壊で対象を確認できる技術として活用が進んでいる。衣類や紙、樹脂といった非金属材料を透過しながら、金属や特定物質で強く反射・吸収される性質を利用することで、空港のボディスキャナーでは服の下に隠された刃物や爆発物、危険物の検知が可能となる。
X線と異なり低エネルギーであるため、被検査者への負担を抑えられる点も重要である。検査用途では、食品包装内部への異物混入の確認や、製品を分解せずに半導体パッケージや複合材料内部の微細な亀裂、剥離を検出できる。外観では判別できない欠陥を工程内で把握できるため、品質管理や安全性向上に大きく貢献する技術である。
医療・ヘルスケア分野
3つ目のテラヘルツ波の用途は、医療・ヘルスケア分野である。テラヘルツ波は非電離放射線であるため、X線のような被曝リスクがなく、妊婦や小児、長期的に検査を繰り返す患者にも適用しやすい点が大きな利点である。
また、皮膚がん診断では、テラヘルツ波が組織中の水分量や構造の違いに敏感に反応する特性を利用し、正常組織と病変部の境界を可視化できる可能性が示されている。これにより、切除範囲の判断精度向上が期待されている。
さらに医薬品分野では、錠剤やカプセルを包装したまま内部の結晶多形や層構造を解析でき、製造工程における品質管理や異常検知を非破壊かつリアルタイムで行える。
テラヘルツ波の研究開発を行う企業事例
最後に、テラヘルツ波の研究開発を行う企業事例を5つ紹介する。
株式会社アドバンテスト
株式会社アドバンテストは、半導体テスト装置で世界トップクラスのシェアを持つ日本企業であり、精密計測技術を強みとして多様な先端分野に事業を展開している。同社は2010年頃からテラヘルツ波の産業応用に本格的に取り組み、非破壊検査や分光解析向けの計測装置を開発してきた。
その代表例が、テラヘルツ時間領域分光を用いたTAS7000やTAS7500シリーズであり、材料内部の構造解析や成分評価を高精度に行える実用装置として研究機関や企業で採用されている。
技術の中核には、フェムト秒パルス光ファイバレーザーを用いた独自のテラヘルツ光サンプリング方式があり、高速かつ安定した測定を実現している。これにより環境変動の影響を抑えた信頼性の高いデータ取得が可能となり、テラヘルツ技術の産業利用を牽引する存在となっている。
トプティカ・フォトニクス(TOPTICA Photonics)
トプティカ・フォトニクス(TOPTICA Photonics)は、1998年に設立されたドイツ・ミュンヘン近郊を本拠とするレーザーメーカーであり、研究用から産業用途まで幅広い光源技術を提供している。
テラヘルツ波分野では、発生・検出に不可欠な超短パルスレーザーや可変波長ダイオードレーザーを中核技術とし、光工学の観点から高精度な計測ソリューションを展開している点が特徴である。
同社は時間領域分光と周波数領域分光の双方に対応したシステムを製品化しており、基礎物理研究から非破壊検査、材料評価まで幅広く利用されている。なかでも時間領域分光システムのTeraFlashシリーズは、ECOPS技術を採用することで機械的遅延機構を用いず、毎秒1,600回以上の高速波形取得を実現している。
これにより、製品の厚み測定や製造ラインでの品質検査など、リアルタイム性が求められる産業用途での導入が進んでおり、テラヘルツ技術の実用化を光源側から支える存在となっている。
ヒューブナー(Hübner)
ヒューブナー(Hübner)は、ドイツに本拠を置き、モビリティ、材料評価、フォトニクス分野で事業を展開するシステムサプライヤーである。テラヘルツ波分野では、研究用途から産業用途までを視野に入れた計測・検査ソリューションを提供しており、操作性の高さが大きな特徴だ。
代表的なT-COGNITIONやT-SPECTRALYZERシリーズは、複雑な光学調整を必要としないプラグ・アンド・プレイ型設計を採用し、専門知識を持たない現場でも安定した測定を可能にしている。
さらに、産業向けには非破壊検査装置T-SENSE FMIを展開し、不透明なプラスチックや複合材料内部の欠陥、空洞、異物混入を可視化する用途で活用されている。研究開発段階にとどまりがちなテラヘルツ技術を、実際の製造現場で使える形に落とし込む点において、同社は重要な役割を担っている。
ルナ・イノベーションズ(Luna Innovations)
ルナ・イノベーションズ(Luna Innovations)は、米国に本社を置く光ファイバ技術および非破壊検査ソリューションのグローバル企業である。光計測分野で培った技術を基盤に、テラヘルツ波の産業応用をいち早く実用段階へと押し上げた企業の一つとして知られている。
代表的なT-Rayシリーズは、テラヘルツ時間領域分光を用いた計測装置で、光ファイバ接続の小型プローブから対象物に照射したテラヘルツ波の反射時間を解析することで、塗膜や樹脂パイプ、多層フィルムの厚みや構造をミクロン単位で測定できる。
これにより、製品を破壊することなく製造工程中に品質を監視することが可能となる。自動車塗装ラインや建材製造、航空宇宙分野の複合材料検査など、厳しい品質管理が求められる現場で幅広く採用されており、テラヘルツ波を研究用途から実用的な産業ツールへと定着させた代表的な企業である。
浜松ホトニクス
浜松ホトニクスは、1953年創業の日本を代表する光電子デバイスメーカーであり、光電子増倍管やイメージインテンシファイアなどで世界的に高いシェアと実績を有している。光を極限まで高感度に検出する技術を中核に、近年はテラヘルツ波分野の研究開発にも注力している。
2025年には、独自開発した高圧電源内蔵型のテラヘルツ波検出モジュールを量産化した。この製品は、メタサーフェス技術と光電子増倍管、イメージインテンシファイア技術を融合した新原理を採用し、室温環境下で高速かつ高感度にテラヘルツパルスを検出できる点が特徴である。
量産対応したテラヘルツ検出モジュールとしては世界初の事例とされる。さらに同社は、量子カスケードレーザーを応用したテラヘルツ光源や位相制御デバイスなどの基礎技術にも取り組み、テラヘルツ波を実用システムへ展開するための要素技術を幅広く開発している。
まとめ
テラヘルツ波は、電波と光の中間に位置する未開拓領域の電磁波として、通信、検査、医療、センシングなど幅広い分野で注目を集めている。物質識別や非破壊計測、高速通信といった独自の特徴は、既存技術では代替しにくい価値を生み出す。
一方で、遮蔽物への弱さや電力効率、検出技術、法制度といった課題も依然として残されている。実用化は着実に進んでいるものの、用途ごとの適性や導入コストを見極めることが重要である。テラヘルツ波は将来の社会基盤を支える可能性を秘めた技術であり、動向を継続的に把握する姿勢が求められる。