1980年代、日本の半導体産業は世界を牽引し、技術力と生産力の両面で圧倒的な存在感を示していた。しかし国際競争の激化と産業構造の変化により、その地位は大きく後退する。こうした状況を転換すべく誕生したのがRapidus(ラピダス)である。
Rapidusは、政府支援と国内主要企業の連携を背景に、北海道・千歳を拠点として2nm世代のロジック半導体開発に挑む企業だ。設計から製造までを視野に入れた新たなビジネスモデルを掲げ、将来的には上場も見据えている。
本記事では、Rapidusとはどんな会社なのかという基本から、注目される理由、特徴・強み、そして今後直面する課題などを整理して解説する。日本の半導体復活の中核を担う存在として、Rapidusの全体像を理解したい方はぜひ一読いただきたい。
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目次
Rapidus(ラピダス)とはどんな会社?
Rapidus株式会社(ラピダス)は、東京都千代田区に本社を置く日本の半導体メーカーで、トヨタ自動車やソニーグループ、NTTなど国内有力8社の出資により2022年に設立された。かつて世界を席巻した日本の半導体産業を再興する国家プロジェクトの中核として、数兆円規模の政府支援を受けている。
最大の目標は、回路線幅2ナノメートルという世界最先端のロジック半導体を、2027年度後半から北海道千歳市の工場で量産することである。従来の大量生産型ファウンドリとは異なり、設計・製造・パッケージングを一体で提供する短納期モデルRUMSを掲げる点が特徴だ。2026年現在はIBMとの技術連携を通じて試作ラインの歩留まり改善を進め、AIや自動運転向けなど高付加価値分野の顧客獲得と、2031年度の上場を見据えた事業基盤の構築に注力している。
Rapidusの上場時期は?
Rapidusの上場時期について、同社が経済産業省に提出した事業計画では、2031年度前後を目標としている。前提となるのは事業の段階的な成熟であり、2027年度後半に2ナノ世代ロジック半導体の量産を開始した後、1.4ナノ、1.0ナノへと2〜3年周期でプロセスを高度化する中期ロードマップが描かれている。
収益面では、先行投資が続く中で2029年度頃に営業キャッシュフローの黒字化、量産拡大と受注安定を通じて2031年度頃にフリーキャッシュフローの黒字化を達成する計画である。上場はこの財務的自立を条件としたもので、資本市場からの資金調達と国の支援に依存しない経営体制への移行を意味する。
したがって、Rapidusの上場時期は量産立ち上げと収益化の進捗に強く連動する戦略的判断と位置づけられる。
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Rapidusが注目される理由
Rapidusが注目を集める最大の理由は、失われた日本の半導体競争力を取り戻す国家規模の挑戦だからである。日本は2000年代以降、40ナノメートル世代を境に最先端ロジック分野から後退し、約20年にわたる技術的空白を抱えてきた。
その中でRapidusは、既存世代を積み上げるのではなく、世界最先端の2ナノメートル世代へ一気に跳躍し、2027年度後半の量産開始を目標に据えている点も注目される要因となっている。なお、2026年現在、試作工程で一定の成果を示し、量産準備段階に入っている点は、技術的ジャンプアップが現実味を帯びている証左だ。
加えて、AIや自動運転、軍事用途にも直結する最先端半導体を海外、とりわけ台湾に依存し続けることへの危機感が、経済安全保障の観点から国内製造拠点の必要性を強く浮かび上がらせている。
他にも、短納期・多品種少量を軸に設計から製造までを一貫提供するビジネスモデルは、既存の大量生産型ファウンドリと明確に差別化され、世界中のAI関連企業にとって代替の利かない存在になり得る点が、産業界と投資家双方の関心を集めている。
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Rapidusが目指す2nmロジック半導体とは
2nmロジック半導体とは、演算処理を担う回路を原子レベルに近い寸法まで微細化した、世界最先端世代の半導体である。なお、2nmという表現は、現在では実際の配線幅そのものを示す数値ではなく、技術世代を表す指標として用いられており、数字が小さいほど性能と電力効率が高いことを意味する。
2nm世代ではGAAトランジスタなどの新構造が採用され、現行の3nmや5nm世代と比べて消費電力を大幅に抑えつつ、同一電力あたりの演算性能を飛躍的に高めることが可能となる。これにより、生成AIや大規模データセンターでは処理効率と省エネ性能が向上し、自動運転では複雑な判断を瞬時に行える安全性が確保される。
さらにチップの小型化は、ウェアラブル端末やロボットなど新たな機器設計の自由度を広げるため、2nmロジック半導体は、持続可能な高度情報化社会を支える中核技術として注目されている。
Rapidusの特徴や強み
Rapidusは設立からわずか数年で国際的な技術提携を完了させ、大規模な開発拠点の建設にも着手するなど急速にプレゼンスを強めている。その背景には同社ならではの明確なビジョンと、他にはない強みが存在する。
最先端技術の保有
Rapidusにおいて最も大きな特徴は、世界最先端レベルの半導体技術を実装・運用する能力を保有している点である。同社が取り組む2nm世代のロジック半導体は、回路寸法やプロセス制御が原子レベルに近づく領域であり、従来世代とは比較にならない難易度を伴う。
この世代では、GAAトランジスタ構造の採用が前提となり、電流制御性能や消費電力効率を飛躍的に高める一方、工程設計や製造条件の精度が厳しく問われる。Rapidusは、こうした最先端構造を前提としたプロセス開発や評価技術を自社内に取り込み、単なる研究段階にとどまらず、将来的な量産を見据えた技術成熟を進めている点が強みである。
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製造からパッケージまでを一貫管理する短納期サービス(RUMS)
次に、Rapidusを象徴する特徴が、RUMSと呼ばれる短納期サービスだ。RUMSは「Rapid and Unified Manufacturing Service」の略で、半導体の設計段階から製造の前工程、さらにパッケージングまでを同一の管理思想のもとで統合的に運用するモデルだ。
従来は工程ごとに企業や拠点が分断され、試作から完成まで長い時間を要してきたが、Rapidusは工程間の無駄を徹底的に排除し、世界最短水準のサイクルタイムを目指している。試作では通常の約3分の1の期間で完了させる体制を整え、迅速な改良と検証を繰り返せる点が強みだ。
この仕組みにより、開発スピードが競争力を左右するAI分野や、多品種少量の専用チップを求める企業に対し、大量生産を前提とする既存大手では対応しにくい柔軟な価値を提供する戦略だといえる。
強固な国際パートナーシップの構築
そして、Rapidusが創業から間もない段階であっても、世界のトップランナーと組み、最先端領域の技術的空白を短期間で埋めにいく国際パートナーシップも強みの一つである。具体的には、2nm世代で先行する米IBMの研究拠点で共同開発を進め、量産に必要なプロセス条件や運用ノウハウを吸収するために約100人規模の技術者を派遣している。
さらにベルギーの研究機関imecのプログラムに参画し、先端プロセス研究の知見や300mmパイロットラインなどへのアクセスを確保している。
こうした連携の成果として、2025年6月の設備立ち上げを経て、同年7月には2nm級GAAトランジスタの試作と電気的特性の確認を公表しており、量産に向けた技術成熟を加速させている。
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AIを活用した設計支援ツール「Raads」の開発
また、AIを活用した設計支援ツール群Raads(Rapidus AI-Agentic Design Solution)の独自開発も強みといえるだろう。Raadsは、製造で得られる各種データをAIで解析し、その知見を設計へ素早くフィードバックして最適化を回す構想で、設計と製造を同時に最適化するDMCO(Design-Manufacturing Co-Optimization)を具体化する役割を担う。
2025年12月の発表では、既存EDAツールと併用することで設計期間を50%、設計コストを30%削減できるとしており、2026年から順次提供予定である。代表的なRaads GeneratorはLLMベースで、仕様入力から2nmプロセスに適したRTL生成を支援し、Raads PredictorはPPA予測や最適化を短期間で行えるとしている。
日本国内での製造拠点の確保
最後に、日本国内で最先端半導体の製造拠点を確保している点も重要である。Rapidusは北海道千歳市に工場を建設し、世界最先端世代のロジック半導体を国内で生産する体制を整えている。
最先端半導体の多くを海外に依存してきた日本にとって、国内で安定的に供給できる製造基盤を持つことは、産業競争力だけでなく経済安全保障の観点からも大きな意味を持つ。特にAIや自動運転、先端情報処理に不可欠なロジック半導体は、供給途絶が社会全体に深刻な影響を及ぼしかねない。
国内拠点での生産は、地政学リスクや国際情勢の変化による影響を抑え、安定した供給を可能にする。また、製造ノウハウの国内蓄積や関連産業の集積を促し、日本の半導体エコシステム再構築にも寄与する点で、Rapidusの国内製造拠点は中長期的に大きな戦略的価値を持つ。
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Rapidusが直面する課題や抱えるリスク
Rapidusは日本半導体復活の切り札として期待を集める一方で、事業の成否を左右する複数の課題とリスクを抱えている。巨額投資が続く資金面の問題から、激化する国際競争、人材確保や量産技術の成熟、さらには地政学的リスクまで、乗り越えるべき論点は多い。ここでは、その中でも特に重要な5つの課題を紹介する。
継続的な巨額資金の確保
1つ目に、Rapidusが直面する課題は、量産立ち上げまで途切れない巨額資金を確保し続けることである。先端ロジックの工場は建屋だけでなく、クリーンルーム、電力・水処理などのインフラに加え、露光装置を含む高額装置の導入で投資額が膨らみやすい。
さらに設備は一度入れれば終わりではなく、性能向上や生産能力拡大に合わせて継続的な増設・更新が必要になる。量産開始前は売上が限定される一方、研究開発費や減価償却、立ち上げ運転の費用が先行し、資金流出が長期化しやすい。
政府支援があっても、支援は段階的で条件付きとなり得るため、追加の出資や借入、将来の上場を見据えた資本政策を一貫して設計しなければ、資金ショートや計画遅延に直結するリスクがある。
競合優位性の確保
2つ目に直面する課題は、2nm世代ロジック半導体市場における競合優位性の確保である。同分野では、TSMCやSamsung Electronicsといった既存大手も同時期に2nm開発を進めており、単に量産に到達するだけでは市場での地位は確立できない。
顧客は性能指標だけでなく、製造コストの妥当性や納期の確実性、開発から量産への移行スピードまでを総合的に評価するため、あらゆる面で明確な強みを示す必要がある。
さらに、2027年前後には次世代となる1.4nm世代の研究開発が本格化する可能性が高く、技術競争は常に先行世代との並走を強いられる構図となる。この環境下で差別化に失敗すれば、顧客獲得が進まず、存在感を示せないリスクが高まる。
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人材の質と量の確保
3つ目に、人材の質と量の確保も課題となるだろう。2nm世代のロジック半導体開発には、微細プロセス、回路設計、製造運用、品質管理まで横断的に理解する高度人材が不可欠だが、日本では最先端ロジック分野の実務経験者が長年減少してきた。
結果として、即戦力となる技術者層は限られ、採用競争は世界規模で激化している。加えて、量産立ち上げに向けては研究者だけでなく、装置運用や生産管理を担う現場人材も大量に必要となる。
短期間で組織を拡大する中で、経験値のばらつきや育成の遅れが生じれば、開発速度や現場の安定運営に影響を及ぼしかねない。人材の継続的な育成と定着を両立できるかが、Rapidusの成長を左右するといっても過言ではない。
技術の習得と歩留まりの向上
4つ目に、最先端技術の確実な習得と量産段階における歩留まりの向上である。2nm世代のロジック半導体は、プロセス条件の許容幅が極めて狭く、わずかなばらつきが性能低下や不良増加に直結する。
試作で動作確認ができても、量産で安定的に良品率を高めるには、膨大なデータ蓄積と継続的な条件最適化が欠かせない。歩留まりが低い状態では、生産効率が上がらず、供給計画や収益見通しにも影響を及ぼす。
また、世代が進むほど工程は複雑化し、装置間の相互作用も増大するため、現場での調整力が問われる。量産初期における歩留まり改善のスピードが、事業の信頼性と成長軌道を左右するだろう。
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米中対立の影響
最後に、米中対立の長期化による事業環境への影響も見過ごせない。先端半導体は安全保障上の重要物資と位置づけられており、輸出管理や技術移転に関する規制は年々強化されている。
とりわけ米国主導の対中規制は、装置や材料の供給条件、販売先の制限といった形で波及しやすく、事業計画の柔軟性を損なう可能性がある。市場面でも、中国向け需要の取り扱いは慎重な判断を迫られ、顧客選定や取引条件に制約が生じかねない。
また、国際情勢の変化次第では、政策やルールが短期間で変更されるリスクも否定できない。こうした地政学的緊張は、技術力や事業戦略とは別次元で経営判断に影響を与えるため、外部環境に左右されやすい構造的リスクとして常に意識する必要がある。
Rapidusの今後の開発ロードマップ
最後に、Rapidusが公表している今後の開発ロードマップを紹介する。
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2027年度後半:2nm世代の量産開始を目指す
Rapidusの今後の開発ロードマップにおいて最大の節目となるのが、2027年度後半に予定されている2nm世代ロジック半導体の量産開始である。この段階は、研究開発中心のフェーズから本格的な事業化フェーズへ移行する転換点を意味する。
2nm世代はプロセス条件の難易度が極めて高く、量産では安定した品質と生産能力を同時に確保することが求められる。そのため量産開始時点では、限定的な顧客や用途に絞った立ち上げとなり、実際の出荷を通じて工程の安定化と品質向上を図る計画だろう。
量産が計画通り進めば、Rapidusは世界でも数少ない最先端ロジック半導体の供給主体として市場に参入することになり、日本の半導体産業にとっても象徴的な成果となる。
2029年:1.4nm世代の生産開始を目指す
また、2029年に計画されている1.4nm世代ロジック半導体の生産開始は、持続的に最先端を追求する姿勢を示すだろう。1.4nm世代では、トランジスタの微細化がさらに進み、消費電力効率や演算密度の向上が一層求められるため、設計と製造の両面で極めて高い完成度が必要となる。
この世代への移行は、単なる技術更新ではなく、先端プロセスを継続的に事業化できる体制が確立しているかを市場に示す意味を持つ。生産開始が実現すれば、Rapidusは特定世代にとどまらず、長期的に最先端領域で競争するプレイヤーとして認識されることになる。
まとめ
Rapidusは、世界最先端の2nmロジック半導体を軸に、日本の産業競争力を再構築しようとする中核的存在である。2nm世代の開発と量産が実現すれば、AIや次世代情報処理分野で日本が再び主導権を握る可能性が広がる。
一方で、この挑戦は単独では完結せず、装置、材料、設計、後工程を含む幅広い協業が不可欠だ。Rapidusは単なる半導体メーカーではなく、研究開発や事業テーマ創出の起点となり得る国家的プラットフォームといっても過言ではない。
自社の強みがRapidus周辺技術に応用できるか、技術ロードマップに沿った協業タイミングの見極め、オープンイノベーションの形での参画といった視点が、今後ますます重要になるだろう。