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2025.07.22 #半導体 #製造業 New!

ラピダス(Rapidus)とは?世界最先端の2nmロジック半導体を開発する会社

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ラピダス(Rapidus)とは?世界最先端の2nmロジック半導体を開発する会社

1980年代、日本は「日の丸半導体」と称されるほどに世界の半導体市場を席巻した。しかし、日米半導体摩擦や韓国・台湾メーカーの台頭、経済の長期低迷もあり、その勢いは次第に失速。再び、日本を半導体の中心地にすべく、政府と国内の有力企業が立ち上げたのが「ラピダス(Rapidus)」だ。北海道・千歳に最新鋭の製造拠点を構え、世界でも数少ない2nm世代ロジック半導体の開発・量産を目指している。本記事では、ラピダスの成り立ちの歴史と、特徴や強み、世界に向けた戦略などについて解説したい。

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ラピダス(Rapidus)とはどんな会社?

ラピダスとは、最先端の2nm世代ロジック半導体の開発と量産を目指すべく、2022年8月に設立された日本の半導体製造メーカーである。

かつて日本は、半導体産業において世界をリードしていた。しかし、1990年代以降はアメリカや韓国、台湾などに押される形で競争力を失ってしまう。近年は、AIや5Gといった先端技術の発展によって再び半導体の重要性に注目が集まり、日本国内での生産基盤の強化が急務になっている。

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ラピダス(Rapidus)の歴史・成り立ち

2019年、IBMは「最先端ロジック半導体を日本で製造できないか」と、当時の東京エレクトロンの会長兼社長であった東哲郎氏に提案。東氏は、この構想を日本の産業界や政府関係者に伝え、最終的にラピダスの設立へとつながった。

ラピダス設立当初は個人株主12人でスタートしたが、同年にトヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、キオクシア、ソフトバンク、NEC、NTT、三菱UFJ銀行など主要8社から合計73億円の出資を受けた。また同年11月、経済産業省はポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業の一環として当初700億円の補助金を交付。さらに、同年12月にはベルギーのIMEC社とMOC(協力覚書)を締結している。

2025年1月には、株式会社Preferred Networksとさくらインターネット株式会社とグリーン社会に貢献する国産AIインフラの提供に向けた基本合意を締結した。このように、ラピダスは日本の半導体産業のハブとなるべく、さまざまな形で官民連携をして技術力向上と事業基盤の強化に努めているのだ。

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北海道・千歳に建設する半導体工場「IIM(イーム)」とは?いつから稼働開始?

IIM(イーム)とはInnovative Integration for Manufacturingの略で、ラピダスが開発・製造を行う最先端半導体の生産拠点のことをいう。

第1棟目となる「IIM-1」は、北海道千歳市の工業団地「千歳美々ワールド」に建設された。同施設は、国内初となる2nm世代の先端ロジック半導体の開発・量産を目指しており、2025年4月にパイロットラインの立ち上げを開始した。2027年には量産開始を目指す。

また、2024年10月3日には、IIM(イーム)に隣接するセイコーエプソン千歳事業所内に、半導体後工程の研究開発拠点「Rapidus Chiplet Solutions(RCS)」を開設すると発表した。

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ラピダス(Rapidus)の特徴・強み

設立からわずか数年で国際的な技術提携を完了させ、大規模な開発拠点の建設にも着手するなど急速にプレゼンスを強めている。その背景にはラピダスならではの明確なビジョンと、他にはない強みが存在する。


最先端の2nmプロセス技術とGAAトランジスタの採用

ラピダスの最大の強みは、2nm世代のロジック半導体の量産・開発に取り組んでいることだろう。

微細化には非常に高度な技術が要求される。同社は、GAAトランジスタ構造を採用することで高性能かつ低消費電力のチップの実現を目指している。この技術は、AIや5G、IoTなどの次世代技術の発展を支える基盤となりうる。


設計から製造までを一貫する「RUMS」モデルの構築

ラピダスは、従来の水平分業型の半導体メーカーとは異なり、設計支援から前工程、後工程までを一貫して行うRUMSモデルを採用。これにより、顧客の要望に沿った専用チップやチップレットを世界一のサイクルタイムでの提供を目指している。

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AIを活用した設計支援ツール「Raads」の開発

ラピダスはAIを活用した設計支援ツール「Raads」を独自に開発。これにより、製造過程で得られるデータをAIで解析し、設計の最適化をスピーディに実施することが可能となる。また、設計と製造の相互最適化を図る「DMCO」コンセプトを具現化し、設計期間の大幅な短縮を実現。


国際的な評価と日本国内での製造拠点の確保

ラピダスはEE Times誌が選ぶ「Silicon 100」に2023年、2024年と2年連続で選出されるなど国際的な評価も高い。

また、北海道千歳市に製造拠点「IIM」を建設し、2025年4月からパイロットライン稼働を開始している。量産が成功すれば先端ロジック半導体の供給確保と日本の競争力強化に貢献する力強い存在となることが期待されている。

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ラピダス(Rapidus)が今後直面する課題とは?

ここまでみると、日本の半導体産業、ひいては日本市場全体にとって非常に夢のある話であると感じるだろう。しかしながら、ラピダスが挑戦しようとしている2nm世代のロジック半導体開発には、非常に高度が技術が求められる。


巨額の資金調達が必要

経済産業省から2025年度に追加で最大8025億円の支援を受けることが決まっており、支援額は累計1兆7000億円にのぼる。しかしながら、研究開発ではおよそ2兆円、量産におよそ5兆円もの資金が必要といわれており、未だ不足しているのが現状だ。


競合優位性の確保

台湾のTSMCや韓国のサムスン電子といった競合他社も同じように、2nm世代のロジック半導体開発を進めている。市場シェアを盤石なものにするには、技術力だけでなくコスト面や納期面などでも優位性を示す必要があるだろう。

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技術開発が高度である

IBMと技術協力を進めているものの、特にEUV(極端紫外線)露光装置の導入や運用には専門的な知識と経験が不可欠だ。そのため、日本国内での製造技術の確立や人材育成は急務といえる。


電力不足の懸念

半導体工場は24時間365日稼働するため、安定的な電力の確保が欠かせない。しかし、2023年度の北海道電力の電源構成は、火力発電が約71.0%、水力発電が約28%、再生可能エネルギーが約1%を占めており、原子力発電は含まれていない。泊原発の再稼働は、電力供給の安定化と電気料金の低減に寄与する可能性があるものの、安全性の確保や地元住民の理解など多くの課題が残されている。


緊密な協業が必要不可欠

2nm世代のロジック半導体開発はまさに前人未踏の領域といえる。この壮大な挑戦を達成するには、多数の領域で多層的な協業が不可欠だ。

設立当初から、IMECやIBMとの緊密な技術連携があるほか、さまざまな国内企業が技術提供・共同開発という形で参画しつつある。しかしながら、先に述べたように半導体業界には強力な競合他社が多数存在している。

このプロジェクトを成功させるには、日本全体がワンチームとなって取り組む必要があるだろう。

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ラピダス(Rapidus)の現状と今後

2nm世代のロジック半導体開発・量産が実現すれば、日本の産業を大きく飛躍させる起爆剤となるだろう。ただし、この極めて壮大なプロジェクトをラピダス単独で成し遂げることは難しい。技術、装置、材料、設計、後工程など、さまざまな領域の企業との協業が極めて重要となる。

研究・企画部門の担当者にとっては、「自社の強みがラピダス周辺技術にどう応用できるか」「技術ロードマップに沿った協業タイミングの見極め」「オープンイノベーションの形での参画」といった視点が、今後ますます重要になる。ラピダスという“国家的プラットフォーム”との接点を見つけることで、自社の「テーマ創出」や「用途開発」のヒントやブレイクスルーにつながるチャンスが眠っているかもしれない。

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