2026年以降の半導体市場がどう動くのか。経営者や事業企画、投資担当のあなたなら、いま最も知りたいテーマではないだろうか。
AIサーバー、EV、自動運転、産業オートメーションなど、次の成長領域はどこにあり、各国の政策や地政学リスクが市場にどのような影響を与えるのか。その答えは、断片的なニュースではなく、世界の主要統計(WSTS)や業界団体(SIA)、国際コンサルティングレポート(PwC)といった一次情報を正しく読み解くことで初めて見えてくる。
本記事では、それら信頼性の高いデータをもとに、2025年の振り返りから2026年の展望、各国の戦略、需要が伸びる分野までを体系的に解説する。
2025年の半導体市場の振り返り
2025年の半導体市場は、2024年と比べて明確に拡大した年である。WSTS(WORLD SEMICONDUCTOR TRADE STATISTICS、世界半導体市場統計)によれば、世界半導体売上は2024年に6,305億ドルとなり前年比19.7%増となった。
それに対し、WSTSは8月に2025年通年の見込みを7,280億ドルへ上方修正し、2024年比で15.4%増と見込んでいる。なお、2025年上期だけで3,460億ドルと前年同期比18.9%増を記録しており、拡大傾向が通年にわたり続いたと評価できる。
地域別には、2025年の世界市場7,008.74億ドルのうち、アメリカが2,302.56億ドル(約33%)、アジア太平洋が3,706.13億ドル(約53%)、欧州が529.69億ドル(約8%)、日本が470.37億ドル(約7%)を占め、アジア太平洋とアメリカが市場を牽引しているとわかる。
企業本社ベースで見ると、2024年時点で米国企業が世界売上の50.4%を占める3,180億ドルを握っており、この優位を維持したまま2025年も2桁成長が見込まれている。成長要因としては、ロジックが前年比37%増、メモリが20%増と、AI向けデータセンターインフラや初期的なAIエッジ機器向け需要が強かったことが大きい。
2026年の半導体市場予測
2026年の世界半導体市場は、WSTSの春季予測およびQ2アップデートで7,607億~8,000億ドル規模とされ、2025年(7,008億~7,280億ドル予測)から約8~10%成長すると見込まれている。
地域別には、2026年の売上予測がアジア太平洋4,022億ドル、アメリカ2,525億ドル、欧州562億ドル、日本498億ドルであり、シェアではアジア太平洋が約53%、アメリカが約33%、欧州と日本がそれぞれ7%前後という構図が続く。
PwCの「Semiconductor and beyond Global semiconductor industry outlook 2026」によると、24~30年のCAGRで米国12.9%、中国7.5%、韓国2.8%、日本1.8%、ASEAN9.9%と示しており、中長期的に米国、中国、東南アジア諸国の存在感が増すとみている。
その背景として、中国は輸出規制を受けつつも自給自足を目指し、レガシーノードやアナログ・パワーなどDAOへの投資を拡大していること、韓国はDRAM・NANDおよびAI向けHBMで規模と価格競争力を武器にメモリ分野のリーダーシップを維持・強化していること、台湾は先端ロジックのファウンドリ投資を継続し、AI・HPC向け先端プロセスの受託生産を拡大していることが挙げられる。
こうした戦略的投資とAI・データセンター需要を背景に、2026年もアジア勢を中心とした市場拡大が続くと予想される。
各国ごとの半導体に関する動向
続いて、各国ごとの半導体製造に関する取り組みや地政学的な状況を解説する。
欧州
欧州における半導体市場は、2026年に562.04億ドルへ成長すると予測され、世界市場シェアは約7%前後を維持しながら着実に拡大する地域と位置づけられている。欧州の2025年から2030年にかけての年間成長率は16.81%と見込まれ、特に自動車、産業機器、電力制御といった分野において強い競争力を発揮するだろう。
また、脱炭素化の進展により、EV向けインバーターや再生可能エネルギー設備に不可欠な高効率パワーデバイスの需要が高まっており、インフィニオン、STマイクロエレクトロニクス、NXPといった欧州大手メーカーが市場成長の中心となる可能性が高い。
加えて、世界的なAIチップ需要の拡大はデータセンターやエッジAI機器を通じて欧州の需要にも波及し、AI関連半導体の存在感も一層高まる見通しである。
欧州は、「欧州半導体法」が2023年に承認されたことで、欧州は2030年までに世界シェア20%獲得を掲げ、生産能力拡大へ向けた大規模投資を進めている。各国で新たなファブの建設が進行中だが、多くは2027年以降に稼働開始を予定しており、2026年時点では準備・建設フェーズが続く。
他にも、チップレット技術やRISC-VベースのIoT向けプロセッサなど新技術への対応も進展しており、欧州市場は独自の産業基盤と政策支援を背景に、2026年も安定した成長を遂げる見込みである。
アメリカ
2026年のアメリカにおける半導体市場は2,524.72億ドルへ拡大すると予測され、約9.6%の成長率を維持しつつ、2024年と2025年に続き世界市場の中核としての地位をさらに強固にすると見込まれている。
市場拡大を牽引する中心は、AI・データセンター向けロジック製品であり、とりわけ先端GPUや高性能CPUの需要が突出している。NVIDIA、AMD、Intelといった主要企業は、AIサーバーやエッジAI用途(AI PCやスマートフォン)向け半導体の需要急増により継続的な売上成長が期待される。
特にNVIDIAはデータセンター向けAIアクセラレーター市場で圧倒的なシェアを維持し、2026年にかけてもクラウドプロバイダーからの旺盛な投資が続くとみられる。米金融機関も半導体市場のピークは2026年半ばと見ており、強い需要環境が持続すると指摘している。
政策面では、CHIPS Actに基づく巨額の補助金制度が国内製造基盤強化を後押ししている。これにより、米国内の半導体製造シェアは2022年の10%から2032年には14%へ拡大する見通しであり、Intel、TSMC、Samsungといった企業への補助金支給が進むことで、新工場建設や既存設備の拡張が急速に進展している。
なお、Samsungが米国内で2nmチップを生産する計画も進めており、先端技術の供給網確立に寄与する可能性が高い。一方で、建設人材の不足や許認可の遅延などの課題も指摘されており、生産立ち上がりのタイミングには注意が必要である。
アメリカはAI、量子コンピューティング、バイオ技術など最先端分野で技術覇権維持を目指し、特に半導体設計(デザイン)分野における圧倒的な優位性をさらに強化する方針を示している。加えて、中国への輸出規制など地政学的要因も市場環境に影響を与えるが、AIを中心とした需要の拡大と製造回帰の流れが相まって、2026年の米国半導体市場は引き続き活況を呈するだろう。
中国
2026年の中国半導体市場は、米中対立による輸出規制の影響を受けながらも、国内自給率向上とAI分野への巨額投資を背景に成長が見込まれる。
WSTSの統計では中国単独の市場規模は示されていないものの、属するAsia Pacific地域全体は2025年に3,706億ドル、2026年に4,022億ドルへ拡大すると予測され、その中で中国は最大市場として中心的な役割を担うだろう。
中国は国内におけるAI開発を加速させるため、AI半導体の供給確保を最重要課題と位置付けており、一部の半導体工場では2025年末までに生産能力を3倍へ増強する計画が進行している。これは、米国によるNVIDIA製品を含む先端AI半導体へのアクセス制限を受け、国内製造によって代替供給を確保する狙いだろう。
IC Insightsによれば、中国国内で生産されるICの市場シェアは2021年時点で16.7%にとどまったが、2026年には21.2%になると予想されており、設備投資や製造拠点の強化が続くとみられる。
ただし、米国による対中輸出規制は依然として中国半導体産業の制約要因であり、オランダ企業ネクスペリア(中国資本)をめぐる動きなど、通商問題は長期的な不確実性を生んでいる。一方で、中国は重要鉱物の輸出規制を2026年11月まで一時停止する措置を講じており、対外関係の安定化を探る動きも見られる。
総じて、2026年の中国半導体市場は、外的圧力に対抗する国内産業の強化と、AI需要の急拡大による新たな成長エンジンを軸に発展する構図が鮮明であり、引き続きアジア太平洋地域の半導体成長を牽引する存在だろう。
日本
2026年の日本の半導体市場は497.76億ドルへ拡大すると見込まれ、2025年の470.37億ドルから堅調な成長を維持すると予測されている。
日本はパワー半導体、センサー、車載向けデバイスといった分野で強みを持ち、特に電動化・再生可能エネルギー分野におけるパワーデバイス需要の増加が市場拡大を下支えしている。また、先端パッケージング技術や半導体製造装置、材料分野で世界的に高い競争力を持ち、サプライチェーンの信頼性向上という観点から国際市場での存在感が高い。
とはいえ、国内の製造基盤強化が2026年の重要テーマだといえるだろう。ラピダスは北海道千歳市で建設中の工場において、2027年の2nm先端半導体量産に向けた投資と準備を加速しており、JASM(TSMC子会社)の熊本工場も稼働を開始し、第2工場以降のプロジェクトが進展している。これにより国内生産体制は着実に拡大しつつある。
世界の半導体製造装置市場が2026年に過去最高を更新すると見込まれる中、東京エレクトロンなど日本の製造装置メーカーはAIサーバー向けHBMやNANDフラッシュ市場の活況を受け、設備投資需要の恩恵を強く受けると予想される。
一方で、自動車や産業機器向け半導体の需要が一時的に弱含んでおり、企業によって業績や投資計画が二極化する可能性も指摘されている。政府は「半導体・デジタル産業戦略」に基づき、2030年までに国内半導体関連企業の売上を15兆円超へ引き上げる目標を掲げており、2026年はその実現に向けた政策支援が継続される。
総じて、日本は先端技術の国内生産体制を再構築しつつ、サプライチェーンの信頼性と技術的優位性を武器に、2026年も安定的な市場成長を続ける必要がある。
台湾
2026年における台湾の半導体動向は、世界的なAI需要の急拡大と、先端ロジック製造での圧倒的優位性によって、引き続き高い成長が見込まれる。
中国と同様に、WSTSの地域区分上、台湾単独の市場規模は示されていないものの、SIA(Semiconductor Industry Association)によれば2024年時点で台湾企業の世界売上シェアは6.5%を占め、特にファウンドリ領域では世界の中核として機能している。Asia Pacific全体では2026年に4,022億ドル規模へ拡大すると予測され、その中心的存在が台湾だろう。
技術面では、先端プロセスと3Dパッケージングが台湾産業の大きな強みであり、AI向けHPCチップ需要の増大が製造能力拡張の原動力となっている。TSMCは2026年下半期に1.6nmプロセス(A16)の生産を開始する計画で、南部サイエンスパークで建設中の2nm工場も2026年に正式稼働すると見込みだ。
これにより、最先端AIチップや高性能プロセッサの供給力が大幅に強化されるだろう。また、先進パッケージング技術(CPOなど)の量産体制が整いつつあり、後工程メーカーのASEテクノロジーなども2026年に能力増強が進められる見通しである。
世界的にエッジAI市場が拡大すると予測されるなか、10nm未満のロジック生産において台湾が引き続き大部分のシェアを占めると予想される一方、米中の通商摩擦などの地政学リスクは依然として不確実性を残す。ただし、TSMCはファーウェイ向け出荷停止後もAppleやNVIDIAなど主要顧客の需要によって生産ラインを維持しており、外部環境への強い適応力を示している。
総じて、台湾の半導体産業は先端技術への継続的投資とAI需要の追い風を受け、2026年に世界サプライチェーンにおける存在感をさらに高めるだろう。
2026年以降で半導体の需要が伸びる分野
2026年以降の半導体需要は、AI、モビリティ、産業オートメーション、次世代通信といった複数の分野が相互に影響し合う形で拡大していく可能性が高い。
特に生成AIの普及が市場成長を強力に押し上げており、データセンター向けの高性能GPUやカスタムAIアクセラレーター、HPCサーバー向けの先端ロジック半導体への需要が急増している。これらの高演算処理チップと連携するHBMなどの高帯域メモリ、ならびに大容量NANDフラッシュの需要も同時に高まる。
なお、クラウド事業者によるデータセンター拡張の勢いも続くとされ、サーバー・ネットワーク向け半導体は2030年に向けて最も高い成長が予測されている。
自動車分野では、電動化と自動運転技術の進展により、車載半導体が市場の第二の成長エンジンとなるだろう。パワー半導体、センシングデバイス、マイコンなどの需要は堅調で、特にSiCやGaNを用いたワイドバンドギャップ半導体が高効率電力制御に不可欠な存在となる。車載用途は単価が高く、搭載数も増えるため、市場の成長率は他分野を上回ると見られる。
また、エッジAIの普及により、PCやスマートフォンにNPUを組み込む動きが加速し、端末側でAI処理を行うための低消費電力・高性能チップの需要が高まる。産業分野でもスマートファクトリー化が進み、ロボット制御用半導体や環境耐性に優れたセンサーの需要が拡大が見込まれる。
他にも、AIやHPCの高性能化に伴い、チップレット構造や3Dスタッキングなどの先端パッケージング技術の重要性が増し、後工程技術への投資も加速するだろう。
半導体不足は落ち着くのか?
2026年の半導体不足は、業界全体としては大きく緩和すると見られ、かつてのような世界規模の供給逼迫が再来する可能性は低いと考えられる。
WSTSによる世界半導体市場から読み解くと、2025年に7,008億ドル、2026年に7,607億ドルへ拡大し、成長率は前年比8.5%と安定した推移が予測されていることから、需給が過熱している状況ではなく、供給能力が需要に追いつきつつあることが読み取れる。
一方で、完全な解消には至らず、分野によってはタイトな供給が続くことも予想される。特にAIデータセンター向けの高性能GPUやHBMなどの先端メモリは需要の伸びが著しく、供給能力の拡大が追い付かない可能性が指摘されている。
また、自動車や産業機器に多く使われる40nm以上の成熟プロセス品は、設備投資が先端分野に偏ることで供給増強が遅れており、局所的な不足が再発する懸念も残る。
まとめ
2025年の半導体市場は生成AIやデータセンター向け需要の拡大により大幅に成長し、売上は7,000億ドル超へと伸びた。2026年も市場は8~10%成長が見込まれ、アジア太平洋とアメリカが中心となって拡大を続けるだろう。
各国ではAI、電動化、産業高度化を背景に技術投資が進んでおり、欧州はパワー半導体や車載分野、アメリカはAIロジックと国内製造基盤強化、中国は自給率向上とAI投資、日本はパワーデバイスと装置産業、台湾は先端ロジックが強みとなっている。
2026年以降はAI、モビリティ、産業オートメーションが成長を牽引し、先端パッケージングや高帯域メモリなどの技術革新も加速する。全体として供給は安定化に向かう一方、AI向け先端品や成熟プロセスなどでは局所的なタイトさが残ると予想される。