製造業における新製品開発では、特許侵害が事業継続に直結する重大なリスクとなるため、研究開発や新規事業、知財戦略を進めるうえで特許調査が欠かせない。
特に開発初期段階で特許調査を実施すれば、設計変更や回避策を検討する時間的余裕を確保でき、後戻りによるコスト増大を防ぎやすい。一方、調査が不十分なまま開発を進めると、販売停止や損害賠償といった深刻な影響を受けかねない。
本記事では、特許調査の目的や基本的なやり方を整理したうえで、効率化のコツや実務上の注意点までを解説する。
特許調査とは?
特許調査とは、特許公報などの公開情報を検索・分析し、特定技術に関する権利の有無や内容、権利範囲、存続状況を把握する業務である。新製品や新規技術の開発では、他社特許を侵害するリスクを事前に見極め、設計変更やライセンス交渉などの判断材料を得ることが目的だ。
また、自社の出願前に先行技術を確認し、権利化の可能性や差別化点を整理する場面でも重要となる。調査対象は国内外に及び、検索語だけでなく特許分類や出願経過、請求項の解釈まで踏み込んで評価する必要がある。
特許調査の種類と目的
特許調査は実施する目的によって視点や見るべき項目が大きく異なる。ここでは、研究開発や事業判断の場面で特に重要となる代表的な特許調査の種類と、その役割を5つ紹介する。
先行技術調査(出願前調査)
先行技術調査(出願前調査)とは、特許出願を検討している発明が、すでに公開されている技術と同一または類似していないかを事前に確認するための調査である。特許制度では、新規性や進歩性が認められなければ権利化はできないため、この調査は無駄な出願や開発投資を避けるうえで不可欠だ。
具体的には、特許データベースや技術文献を用い、発明を構成要素ごとに分解して検索し、既存技術との差異を整理。その過程で、権利として主張すべき技術的特徴や改良点が明確になり、請求項の設計精度を高めることができる。
調査が不十分だと、出願後に先行例が見つかり権利化できない、あるいは権利範囲が過度に狭まるリスクが高まる。早期に実施するほど、発明の磨き込みや出願戦略の精度を高めやすい。
侵害予防調査(クリアランス調査/FTO調査)
侵害予防調査とは、自社が開発・販売を予定している製品や製造方法、提供するサービスが、他社の特許権を侵害していないかを事前に確認するための調査である。クリアランス調査やFTO調査とも呼ばれ、事業リスクを回避するうえで極めて重要な役割を果たす。
具体的には、有効に存続している第三者特許を対象に、特許請求の範囲と自社技術の構成を照らし合わせ、権利範囲に抵触する可能性があるかを専門的に調査する行為だ。なお、調査対象は出願中のものではなく、権利として存続している特許が中心となり、請求項の文言解釈が重要となる。
また、調査結果を基に、設計変更や代替技術の検討、ライセンス交渉の要否を判断する。侵害が成立すると差止請求や損害賠償に発展する恐れがあるため、事業化直前での実施が多く、法的・経営的リスクを回避するために欠かせない調査である。
技術動向調査
技術動向調査とは、特定の技術分野における研究開発の進展や新技術の登場状況、特許出願の傾向、市場への適用状況などを多角的に分析する調査である。個々の特許の可否を判断するのではなく、特許情報を俯瞰的に捉えることで、技術や事業の全体像を把握する点が特徴だ。
研究開発の初期段階や新規事業の検討時に実施することで、すでに競争が激化している領域や、今後成長が見込まれる分野を見極めやすくなる。また、出願件数や出願人の変化から競合企業の注力領域を把握し、自社の強みや弱みを相対的に評価することも可能となる。
戦略的な研究テーマの選定や事業判断を支える基礎情報として重要な調査といえる。
無効資料調査
無効資料調査とは、すでに登録されている他社の特許や、自社の特許を無効にする(取り消す)ために役立つ先行技術文献(無効資料)を探し出す調査である。主に、他社特許が自社事業の障害となっている場合や、警告書の受領、訴訟対応を検討する局面で実施される。
調査では、対象特許の出願日以前に公開されていた特許公報や学術論文、技術資料などを網羅的に検索し、新規性や進歩性を否定できる内容が含まれているかを精査する。単に類似技術を探すのではなく、請求項の構成要件を満たすかどうかを論理的に対比する点が重要となる。
適切な無効資料を発見できれば、権利行使の抑止や交渉上の優位性確保につながるため、法的・事業的に影響の大きい調査である。
他社の監視および参入抑止
特許調査の目的は先ほどの4つが主な目的となるが、他社の監視と参入抑止にも特許調査が有効であると伝えたい。
特定の競合を定め、その出願内容や請求項の変化を追跡することで、どの技術領域に注力しているか、将来的に競合となり得る製品やサービスの方向性を把握できる。また、自社が保有する特許ポートフォリオと照らし合わせることで、牽制となる権利の有無を確認し、必要に応じて追加出願や権利強化を検討する判断材料となる。
こうした継続的な監視は、市場への新規参入を抑止し、競争優位を維持するための戦略的な特許活用につながる。
なぜ特許調査が重要なのか
特許調査は単なる事前確認ではなく、事業の成否を左右する重要な判断材料となる。ここでは、特許調査が経営や研究開発に不可欠とされる理由を4つ紹介する。
法的・経営リスクの回避
特許調査が重要とされる最大の理由は、法的および経営リスクを未然に回避できる点にある。特許権は排他的な権利であり、侵害が認められれば製品の製造・販売停止や損害賠償請求に発展する可能性が高い。
こうした事態は売上の喪失にとどまらず、ブランド価値の低下や取引先との関係悪化など、経営全体に深刻な影響を及ぼす。特許調査を通じて他社権利の存在や範囲を把握しておけば、問題が顕在化する前に設計変更や対応方針を検討できる。
無駄な時間・コストの削減
また、無駄な時間やコストを削減するうえでも特許調査は重要だ。十分な調査を行わずに開発を進めると、後になって既存技術との重複や実現性の低さが判明し、設計の見直しや開発中止を余儀なくされることがある。こうした手戻りは、投入した人員や期間、試作費用を無駄にする原因となる。
特許調査によって技術の位置づけや既存技術との差異を早期に把握できれば、検討すべき方向性を絞り込み、効率的に開発を進められる。また、出願段階でも、成立可能性の低い出願を避けることで、出願費用や管理コストの抑制につながる。事前の調査は、開発と権利化の両面で無駄を減らす有効な手段だといえる。
競争優位性の確立
次に、競争優位性を確立するためにも特許調査は重要である。自社および競合他社の特許内容を把握することで、どの技術領域がすでに押さえられているか、逆に未開拓の余地がどこにあるかを見極められる。
これにより、競合と真正面からぶつかるのではなく、差別化しやすい技術や独自性を発揮できる領域に注力できる。また、競合の出願傾向や権利範囲を理解していれば、自社の強みを活かした特許ポートフォリオの構築が可能となり、市場での発言力や交渉力も高まる。
経営戦略や研究開発の最適化
最後に、特許調査は経営戦略や研究開発を最適化するためにも重要である。特許情報には最新から過去に至るまでの技術知識が体系的に蓄積されており、技術分野ごとの発展経緯や注目領域を俯瞰的に把握できる。
こうした情報を分析することで、既存技術が集中している領域と、出願が少ない未開拓領域、いわゆるホワイトスペースを見出すことが可能だ。その結果、研究テーマの選定や開発の方向性を客観的に定められ、限られた研究資源や投資を効果的に配分できる。特許調査は単なる権利確認にとどまらず、事業の成長に直結する戦略立案を支える役割も果たす。
特許調査のやり方
特許調査は目的や体制に応じた複数の進め方が存在するが、以下の3つが主流である。
特許情報プラットフォームでの検索
1つ目は、特許情報プラットフォームでの検索だ。特許情報プラットフォームでの検索は、特許調査の基本的な手法であり、多くの企業や研究者が最初に取り組む方法である。
公的機関が提供する特許情報プラットフォームを利用し、公開特許公報や特許公報を対象に技術内容や権利情報を確認する。検索では、発明の構成要素を分解してキーワードを設定するだけでなく、特許分類を組み合わせることで網羅性と精度を高めることが重要となる。
また、出願人や出願日、法律状態などの条件を加えることで、調査目的に沿った絞り込みが可能となる。操作に習熟すれば低コストで継続的な調査が行える点が特徴であり、基礎的な特許調査手法として広く活用されている。
調査会社への依頼
2つ目の特許調査のやり方として、専門の調査会社へ依頼する方法がある。特許調査では技術の検索だけでなく、請求項の解釈や技術内容の理解が求められるため、高度な専門性も必要となる。
調査会社であれば、特許実務や特定分野に精通した調査担当者が在籍しているため、目的に応じた調査設計から結果の分析、報告書作成までを一貫して任せることが可能だ。特に重要案件や事業判断に直結する調査では、第三者の客観的な分析が有効となる。
一方で費用や調査期間が発生するため、調査目的や期待する成果を事前に明確に共有することが求められる。
特許調査ツールの活用
3つ目に、特許調査ツールの活用もおすすめしたい。近年の特許調査ツールは自然言語処理や機械学習を用いた機能が搭載され、検索式を高度に設計しなくても関連性の高い文献を見つけやすくなっている。
また、検索結果の保存や比較、履歴管理が可能なため、チーム内での情報共有や継続的な監視にも適している。一方で、出力結果の妥当性を判断するには特許実務の知識が不可欠なため、ツールは判断を補助する存在として使いこなすことが重要である。
特許調査に関する基本
特許調査を正しく行うには、基本となる知識が欠かせない。ここでは、特許情報を読み解くうえで押さえておくべき基本的なポイントを3つ紹介する。
公開特許公報と特許公報
1つ目に基本となるのが、公開特許公報と特許公報の違いを理解することである。公開特許公報は、特許出願から原則1年6か月が経過した時点で公開される文書で、出願中の技術内容を把握するために用いられる。
一方、特許公報は審査を経て特許権が成立した後に発行されるもので、権利として確定した内容が記載されている。両者には明細書や請求項などの構成は共通するが、法的な意味合いは大きく異なる。
調査では、技術内容の把握には公開特許公報を、権利内容の確認には特許公報を参照するなど、目的に応じた使い分けが重要となる。
| 公開特許公報 | 特許公報 | |
|---|---|---|
| 発行タイミング | 出願日から原則1年6か月後に自動的に公開 | 特許査定・登録後、約1~2か月以内に発行 |
| 位置づけ | 出願中の技術内容を示す | 権利として確定した内容を示す |
| 法的効力 | 特許権はまだ発生していない | 特許権が発生している |
| 主な用途 | 技術動向や研究開発の把握 | 権利範囲や侵害可否の確認 |
| 調査での使い分け | 技術内容を広く把握したい場合 | 権利内容を正確に確認したい場合 |
IPC・FI・Fターム
2つ目の基本は、IPC・FI・Fタームの分類だ。IPC・FI・Fタームは、特許文献を技術内容ごとに体系的に分類するための仕組みであり、特許調査の精度を高めるうえで欠かせない。
IPCは国際的に共通で用いられる特許分類で、技術分野を大括りから細分化して整理している。FIはIPCを基に日本独自で細分化した分類で、より具体的な技術内容を把握しやすい。一方、Fタームは技術的観点や機能、構造、用途など複数の切り口から特許を横断的に分類する仕組みである。
これらを適切に組み合わせることで、キーワード検索では拾いきれない関連技術を効率的に抽出でき、調査の網羅性と再現性を大きく高めることができる。
| 分類 | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| IPC | 国際的に共通の特許分類 | 技術分野を大分類から細分類まで体系的に整理 |
| FI | IPCを基にした日本独自の分類 | IPCより細かく、具体的な技術内容を把握しやすい |
| Fターム | 多角的に特許を分類する仕組み | 機能・構造・用途など複数視点で横断的に検索可能 |
リーガルステータス
リーガルステータスとは、特許出願や特許権が現在どのような法的状態にあるかを示す情報であり、特許調査では必ず確認すべき要素である。特許は出願後、審査請求前や審査中といった段階を経て、拒絶や査定不服の手続きに進む場合もある。
審査を通過して特許が成立すると有効な特許権が発生するが、その後も異議申立や無効審判が請求されることがあり、係争中の状態となる場合がある。重要なのは、特許権が実際に効力を持つのは有効な特許、または無効審判中の特許に限られる点である。
権利が消滅している場合は、侵害リスクの判断対象とはならないため、技術内容だけでなく法的状態を正確に把握することも不可欠である。
| ステータス | 権利の存続状態 | 説明 | 特許権の有無 |
|---|---|---|---|
| 審査請求前 | 存続している | 特許出願から審査請求前までの段階または審査請求が却下された段階。出願内容に対する実体審査は未実施。 | 無 |
| 審査中 | 存続している | 審査請求から審査段階における特許査定または拒絶査定までの段階。出願内容について、特許審査官による実体審査が行われている。 | 無 |
| 査定不服 | 存続している | 拒絶査定不服審判請求がされ、拒絶査定不服審判請求が継続中の段階。 | 無 |
| 特許 有効 | 存続している | 審査または審判による特許査定後に特許権が設定登録されている段階。または、特許異議申立の異議決定・無効審判の審決が確定し、特許権が維持されている段階。特許権が存在する。 | 有 |
| 異議申立中・無効審判中 | 存続している | 特許異議申立中または無効審判請求中の案件。特許権が存在する。 | 有 |
| (出願の)却下・拒絶 | 存続していない | 出願の取下げ、却下、拒絶査定の維持などにより、特許庁に特許出願が係属しなくなった段階。 | 無 |
| 特許 消滅 | 存続していない | 年金不納、放棄、存続期間満了または審決により、特許権が消滅している段階。 | 無 |
特許調査を効率化する際のコツ
例えば侵害予防調査では、数百の特許情報を調査しなければならないため、全てをくまなく見るやり方では、到底業務は回らない。ここでは、調査の抜け漏れを防ぎつつ作業効率を高めるために意識したい実践的なコツを3つ紹介する。
テキスト検索と特許分類検索の併用
特許調査を効率化するうえでは、テキスト検索と特許分類検索を併用が欠かせない。テキスト検索は発明内容を直感的に探せる一方、表現の違いや記載漏れにより重要な文献を見逃す恐れがある。
これに対し、特許分類検索は技術分野に基づいて体系的に文献を抽出でき、網羅性を高めやすい。両者を組み合わせることで、まず広く関連文献を洗い出し、次に分類軸で精度を高めるといった段階的な絞り込みが可能となる。
表現依存と体系依存の弱点を相互に補完することで、漏れとノイズを同時に抑えた調査が実現する。
- ステップ1:広いキーワードで全体像を把握
- ステップ2:特許分類を掛け合わせて、読むべき候補を絞り込む
- ステップ3:「公開日」や「出願人(競合他社名)」でフィルタリングし、優先順位を決める
検索演算子の活用
次に、検索演算子の活用も特許調査の精度と効率を高めるために不可欠だ。複数の検索語をそのまま並べるだけでは、不要な文献が大量に含まれたり、逆に必要な情報を取り逃がしたりしやすい。
論理演算子を用いて語句の関係性を明示すれば、調査対象を意図した範囲に的確に絞り込める。例えば、複数の技術要素を同時に含む文献を抽出したり、同義語や関連語をまとめて検索したりすることで、検索結果の網羅性と精度を両立できる。
また、不要な概念を除外する指定を加えることで、ノイズとなる文献を減らすことも可能だ。検索式を意識的に設計することが、調査時間の短縮と判断精度の向上につながる。
| コード | 説明 |
|---|---|
| FI | FIの検索(省略可) |
| FT | Fタームの検索(省略可) |
| IP | 国際特許分類(IPC)の検索 |
| TX | 明細書全体を対象に検索 |
| TI | タイトルのみ検索 |
| AB | 要約部分を検索 |
| CL | 請求項を検索(権利調査で重要) |
| 演算子 | 名称 | 意味 | 例 |
|---|---|---|---|
| * | AND検索 | 両方を含む文献を検索(最優先) | 半導体*電池 |
| + | OR検索 | いずれかを含む文献を検索 | EV+電気自動車 |
| - | NOT検索 | 指定語を含む文献を除外 | 電池-鉛 |
| [ ] | 大括弧 | 優先的に処理する範囲を指定 | [A-B]*C |
| ( ) | 丸括弧 | 共通部分をまとめる | (LED+発光ダイオード)/TI |
| ? | ワイルドカード | 任意の文字を表す ※?は1文字なので3文字指定したい場合は「???」 | ??通信、??自動車、??通信?? |
| C | 近接検索 (順序固定) | 指定語が一定文字数以内で順序通りに出現 | キーワードA,距離C,キーワードB (例:自動運転,5C,プログラム/TX) |
| N | 近接検索 (順序自由) | 指定語が一定文字数以内で順不同に出現 | キーワードA,距離N,キーワードB (例:自動運転,5N,プログラム/TX) |
| NOT | 拡張NOT | 前語を含み、後語のみの文献を除外 | ログ,NOT,アナログ/TX |
読む順番の固定
最後に、特許文献を読む順番を固定することで効率化が可能だ。特許は文量が多く、1件ずつ最初から最後まで精読すると膨大な時間がかかるため、早い段階で不適合な文献を除外する視点が重要となる。
まず図面を確認し、構造や方式が明らかに異なるものはその時点で対象外とする。次に要約を読み、技術の全体像や目的が調査対象と合致するかを判断する。そのうえで特許請求の範囲を確認し、自社技術と権利範囲が重なる可能性があるかを見極める。
詳細な説明は、これらの段階で判断がつかない場合にのみ読み込む。この順序を徹底することで、調査のスピードと判断の一貫性を高められる。
- 図面:パッと見て構造が違うものはその時点で除外
- 要約:技術の概要を確認
- 特許請求の範囲:権利範囲が自社と重なるか確認
- 詳細な説明:上記で判断がつかない時だけ読む
特許調査で注意すべきこと
最後に、特許調査の精度を左右する注意点を紹介する。
調査の目的と範囲の明確化
最初の注意点は、調査の目的と範囲を事前に明確化することである。目的が曖昧なまま調査を始めると、検索条件や判断基準が定まらず、必要以上に広い文献を集めてしまったり、逆に重要な特許を見落としたりする恐れがある。
例えば、開発判断のための把握なのか、事業化可否の確認なのかによって、注目すべき技術要素や国・期間の設定は大きく異なる。調査範囲についても、対象とする技術領域、国・地域、時期を具体的に定めておくことで、調査結果の解釈に一貫性が生まれる。
語句の表記揺れの見落とし
次に、語句の表記揺れを見落とさないことだ。同じ技術であっても、出願人や時代、分野によって用語の表現が異なることは珍しくない。例えば、「EV」と「電気自動車」や、「バイオリン」と「ヴァイオリン」のように、略語と正式名称、カタカナ表記と英語表記、言い換え表現などが混在すると、特定の語句だけで検索した場合に関連文献を取り逃がす恐れがある。
さらに、発明者が意図的に一般的でない表現を用いるケースもあり、検索漏れの原因となりやすい。調査では、同義語や関連語を幅広く想定し、複数の表現を組み合わせて検索条件を設計する姿勢が求められる。
請求項(クレーム)の正しい解釈
最後に、請求項(クレーム)を正しく解釈することが重要である。特許の技術内容は明細書全体に記載されているが、権利の効力が及ぶ範囲は請求項によって定義される。そのため、発明の背景や実施例だけを読んで判断すると、実際の権利範囲を誤って理解する恐れがある。
請求項は一つひとつの構成要件の組み合わせで成り立っており、どれか一つでも欠ければ権利侵害は成立しない。文言の意味を技術的・法的に丁寧に読み解き、自社技術が全要件を満たすかを冷静に判断することが不可欠である。
まとめ
特許調査は、特許侵害を防ぐ守りの手段であると同時に、競争優位や事業機会を見極める攻めの武器でもある。一方で、検索設計や読み解きには専門性が求められ、経験が浅い担当者や新人にとっては見落としや解釈の齟齬が生じやすいのも現実だ。
調査精度が低いまま意思決定を行えば、想定外のリスクや機会損失につながりかねない。基本を押さえ、適切な手法と視点で特許調査に向き合うことが重要だろう。