次世代電池を巡る開発競争は、2026年以降もさらに激しさを増す見通しだ。電気自動車の普及拡大や再生可能エネルギーへの転換によって、高性能かつ安全性が高く、供給リスクの小さいエネルギー貯蔵技術への需要が急速に伸びているためだ。
資金や資源の調達、製造拠点の確保・拡大が今後の覇権を左右する要因となり、バッテリー市場も転換点を迎えつつある。本記事では、2026年以降の次世代電池の市場動向とその背景にある各国の政策や市場ニーズや産業構造の変化について解説していく。
目次
次世代電池とは何か?
次世代電池とは、高エネルギー密度や高い安全性、長寿命、低コスト、低環境負荷といった特性を同時に追求する電池技術の総称である。
現在主流のリチウムイオン電池は電気自動車や定置型蓄電システムの拡大によって需要が急増しているが、可燃性電解液に起因する熱暴走リスクや材料価格の高騰、さらには理論容量の限界が顕在化しており、性能向上だけでは将来需要をすべて吸収しきれない状況にある。この制約を突破するため、産業界では代替となる次世代電池の開発競争が進んでいる。
その代表格には固体電解質を用いて安全性とエネルギー密度を高める「全固体電池」があげられ、他には樹脂系電解質で柔軟性と低コストを両立する全樹脂電池、レアメタル依存度を下げるナトリウムイオン電池、高温動作に適したNAS電池、金属資源の豊富さを強みにしたマグネシウムイオン電池、大型蓄電向けのレドックスフロー電池などがある。
さらに広義的には発電と蓄電を融合するペロブスカイト太陽電池や環境熱を電力に変換して充電される三次電池まで含む概念へ拡張されつつある。
2026年以降の次世代電池の市場規模や動向について
2025年1月に富士経済が公開した調査レポート「2025 次世代電池関連技術・市場の全貌」によれば、全固体電池やナトリウムイオン二次電池などを含む次世代電池の世界市場規模は、2024年見込みの1218億円に対し、2045年には10兆2472億円規模に達すると予測。
また、次世代電池の中でも圧倒的なシェアを誇るのが全固体電池だ。2024年見込み1158億円に対し、2045年には8兆7065億円にまで成長すると予測している。さらに、固体電解質別に全固体電池の市場をみると、現在、市場の約99%を占めるのが酸化物系で、2024年時点で1143億円の見込みとなっている。なお、硫化物系は2020年代後半から市場が拡大するとみられている。
一方、ナトリウムイオン二次電池は、2024年の見込みが60億円に対し、2045年には1兆3473億円にまで伸長すると予測。また、同社が2025年6月に発表した「2025固体電解質市場・主要サプライヤーに関する調査」によれば、2045年の世界市場規模は硫化物系固体電解質が7553億円、酸化物系固体電解質が4022億円に達すると予測。
硫化物系は、一部の自動車メーカーや電池メーカーが2027年から2030年頃にEV向け硫化物系全固体電池の量産を始めると発表しているが、現状は本格的な実用化に至っておらず、2025年の市場規模予測は91億円となった。
さらに、2025年3月にMordor Intelligenceが発表した「次世代先端電池-市場シェア分析、産業動向・統計、成長予測(2025年~2030年)」によれば、次世代先端電池の世界市場規模は2025年に20億1,000万米ドルに達すると推定。2025年から2030年の成長率は7.24%で、2030年には28億4,000万米ドル規模にまで拡大すると予測している。
各地域別の次世代電池の動向について
ここからは、地域別の次世代電池の市場動向について解説する。
アジア太平洋地域
先述したMordor Intelligenceの同レポートによれば、アジア太平洋地域では次世代電池産業が急速に拡大しており、特にインドネシアが豊富なニッケル資源を背景に、製錬所や関連工場の建設が加速していることが成長を支えている。
また韓国や東南アジア諸国でも研究開発投資と生産体制の拡張が進み、固体電池や高性能蓄電システムの商業化を視野にした官民の取り組みが強まっている。これらの動きにより、同地域は素材供給から製造までの一体的なバリューチェーンを構築しつつあり、今後の市場拡大を牽引する重要拠点として位置づけられている。
アメリカ
アメリカでは、電気自動車の推進に伴う形で次世代電池のプロジェクトが複数動いている。エネルギー省のVehicle Technologies Office(VTO)では、電池化学やセル技術の革新を目的とした研究支援を行い、充電時間の短縮やコスト低減を目指していることが公式に示されている。
また、エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)は新たな電池技術のブレークスルー創出を目的に、大学や国立研究所、企業を対象に次世代電池プロジェクトへの資金提供プログラムを実施しており、「EVs4ALL」といった複数の先進バッテリー開発プロジェクトに助成金を配分している。
しかしながら、現トランプ政権になって潮目が変わりつつある。2025年12月には、CAFE規制の大幅緩和と減税・歳出法で定めていた燃費基準を満たせない自動車メーカーへの罰金を廃止する方針を発表した。度重なる規制撤廃やガソリン車への優遇措置などもあり、市場成長は鈍化するものと見込まれる。
ヨーロッパ
ヨーロッパでは域内連携による次世代電池開発が加速しており、中心となるのがEU最大の研究・イノベーション支援枠組であるHorizon Europeである。同枠組の下では、2025年7月に欧州4ヵ国、9つの企業・研究機関によって発足されたリチウム硫黄電池の開発を進める組織TALISSMANが発足し、軽量高エネルギー密度電池の実用化を目指す取り組みが始まっている。
また、高性能で持続可能なバッテリー技術の創出を掲げるBattery2030+では、新材料探索やセル設計に加え、製造プロセス改善、リサイクル技術、長寿命化、センサーによる安全監視、自己修復機能といった先端研究が進められており、欧州産業の競争力強化に向けた重要な基盤となっている。
インド
インドの次世代電池市場は依然として発展途上にあるが、新車販売台数が中国、アメリカに次いで世界第3位であることから将来需要は極めて大きい。インド政府は二輪・三輪車で8割、乗用車で3割、商用車で7割を電動化するという2030年目標を掲げ、補助金制度や充電網整備を通じてEV普及を加速している。
今後は電気自動車(EV)に搭載するバッテリーの需要が高まることは必至であり、このことから同国は今後、次世代電池の重要な需要国としての位置を確立していくとみられる。
中国
中国では次世代電池を国家戦略として位置づける姿勢が一段と強まっている。2025年10月に中国商務部と海関総署が発表した新たな輸出管理では、エネルギー密度や構成材料で一定基準を超えるリチウム電池や電極材料、関連製造装置を管理品目に指定し、先端技術の国外流出を防ぐ方針を明確にした。
また、最近策定された第15次5カ年計画 (2026〜2030年)では、新エネルギー車(NEV)が重点産業から外れる見通しとなり、過剰生産の是正や産業再編を促す政策転換が示されている。これらの動きは、中国が次世代電池産業を量的拡大から質の高度化へと移行させ、国際競争力を維持する体制構築を進めていることを示している。
日本
日本では2022年に経済産業省が主導する形で「蓄電池産業戦略」を立ち上げ、全固体電池を中心とする次世代蓄電池の研究開発から量産化までを国家的に後押しする方針を示した。この戦略では国内製造基盤の強化と国際競争力の確保が重視され、材料調達からセル生産、リサイクルまで一体的な産業構築が求められている。
研究面ではNEDOが枠組みを担い、次世代全固体蓄電池材料の評価手法やセル設計基盤の確立、さらに次世代蓄電池とモーター技術を統合した高効率電動システムの開発が進む。各企業もパイロットライン整備や実証試験を本格化させており、実用化の加速に向け官民連携が強まりつつある。
電気自動車の普及が、次世代電池の市場を牽引
電気自動車(EV)は、エネルギー効率を高め、温室効果ガスや公害の排出を削減するキーテクノロジーとして、自動車産業においてなくてはならない存在となりつつある。Mordor Intelligenceの調査レポート「Electric Cars Market Size & Share Analysis - Growth Trends & Forecasts Up To 2029」によれば、電気自動車(EV)の市場規模は2025年に1兆1,500億米ドルと推定。2029年には2兆1,500億米ドルに達すると予測され、2025から2029年の間で17%成長すると予測。
電気自動車(EV)にとって動力源となる次世代電池は切っても切り離せない関係にある。特に、走行距離の向上や安全性改善といった面からバッテリーの開発は極めて重要である。電気自動車(EV)の普及拡大が次世代電池の市場成長を担うといっても過言ではない。
トヨタ
トヨタ自動車は日本を代表する自動車メーカーであり、ハイブリッド車で培った電動化技術を基盤に次世代電池開発を進めている。同社は電気自動車向けの全固体電池の実用化を目指し、出光興産とは硫化リチウムの量産体制構築で、住友金属鉱山とは正極材の研究開発と量産化で協業している。
これらの共同開発は高エネルギー密度と安全性を備えた電池の確立を目的とし、トヨタは2027〜2028年を目処に年間5万~6万台分の全固体電池の製造と量産を開始する計画を公表している。
パナソニック
パナソニックは日本の大手電機メーカーであり、傘下のパナソニックエナジーを通じて車載用リチウムイオン電池の供給で世界的な実績を持つ。同社は次世代電池分野にも注力しており、2025年9月に産業機械向け全固体電池の開発状況を公表し、2026年度からサンプル出荷を開始する計画を明らかにした。
この全固体電池は高い耐環境性と安全性を特徴とし、工業用ロボット、タイヤ空気圧監視システム、車載センサーなどへの応用が検討されている。パナソニックは車載向け電池で培った技術基盤を活かし、次世代電池の産業用途拡大を図っている。
CATL
CATL(寧徳時代新能源科技)は中国を拠点とする世界最大級の車載電池メーカーであり、リチウム鉄リン酸電池の活性材料分野では世界生産の98%以上を占めるとされ、高い技術的優位性を築いている。
同社は次世代電池にも積極的で、2025年9月には電気自動車向けナトリウムイオン電池が中国の新たな安全基準の認証を取得したと発表した。この電池は詳細が公表されていないものの、2024年12月に量産を開始したナトリウムイオン電池ブランド「Naxtra」に属するとされ、低温性能やコスト競争力を背景にEV搭載への展開が期待されている。
リチウム鉄リン酸電池の活性材料では、世界生産の98%以上を占めており、CATLはこの分野での技術的優位性を確立している。2025年9月、同社は電気自動車(EV)に搭載するナトリウムイオン電池で中国の新たな安全基準の認証を取得したと発表。詳細は明らかにされていないが、2024年12月に量産を開始したナトリウムイオン電池の新ブランド「Naxtra」とされる。
2026年に注目すべき次世代電池まとめ
次世代電池の技術は、エネルギーの安定供給、産業の競争力、そして地球環境の持続可能性に大きな影響を与えるだろう。2026年以降、開発競争は基礎研究から量産・市場獲得のフェーズへと移行し、安全性とエネルギー密度に優れる全固体電池と、資源制約が少なくコスト競争力が高いナトリウムイオン電池が、それぞれの強みを活かし市場を二分する展開が予想される。
この熾烈な競争を勝ち抜くキーポイントは、技術力の優位性に加えて安定したサプライチェーンの確立、そして初期導入コストの低減にある。今後も、次世代電池の市場トレンドに目が離せない。