技術を起点に新しい市場を見つけたい、顧客価値につながる用途開発を進めたいと考える企業にとって、技術と市場の接点を体系的に整理する手法の重要性は高まっている。特に、既存事業の枠を越えて自社技術の可能性を広げようとする際、多くの担当者が技術とニーズをどのように結び付ければよいかという課題に直面する。
本記事では、その思考を整理するための有効な枠組みとして注目されるMFTフレームワークを取り上げ、技術と市場、そして顧客価値を結びつけるための実践的なプロセスを解説する。
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目次
MFTフレームワークとは

MFTフレームワークとは、Market(市場)、Function(機能)、Technology(技術)の頭文字をとった技術活用の可能性を体系的に整理する手法である。従来の用途開発では、技術と市場を直接結び付けて検討するケースが多いが、このアプローチでは発想が限定されやすく、新たな市場機会を見落とすリスクがある。
そこでMFTフレームワークでは、技術を「どんな機能を生み出すか」という視点に分解し、その機能が役立つ可能性のある市場を広く探索する。例えば、耐熱性という機能を持つ技術は、自動車部材だけでなく、食品加工設備、航空宇宙、医療機器など複数の市場で応用可能となる。
このように、一つの技術から複数の機能が抽出され、そこから多様な市場が枝分かれするため、従来想定していなかった用途を発見できる点が大きな特徴だ。技術起点でありながら顧客価値との接続を促す思考法として、研究開発部門や新規事業部門で活用が進んでいる。
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MFTフレームワークを構成する3つの要素
MFTフレームワークは、技術の可能性を広げるために欠かせない三つの要素を紹介する。なお、説明をわかりやすくするために、Technology(技術)から順に解説する。
Technology(技術)

Technology(技術)とは、企業が保有する固有の知識、材料、製造プロセス、装置、ノウハウなど、価値創出の源泉となる要素を指す。MFTフレームワークにおける技術の役割は、自社が持つ強みを正しく把握し、その可能性を最大限に引き出す出発点となる。
例えば、独自材料であればその物性、加工技術であれば精度や生産性、ソフトウェア技術であればアルゴリズム性能など、技術が持つ特性を具体的に整理する必要がある。技術の理解が不十分であると、本来発揮できる価値が見過ごされ、用途探索の幅が狭まってしまう。
逆に、技術の本質を正しく捉えれば、新市場への応用可能性を見いだしやすくなるため、用途開発や事業戦略の基盤として重要な要素である。
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Function(機能)

Function(機能)とは、技術そのものが本質的に発揮できる働きや特性を指し、MFTフレームワークの中心となる要素である。機能を正確に捉えることで、技術がどのような価値を生み出せるかを抽象度高く整理でき、結果として新たな用途や市場を見つけやすくなる。
例えば、強度の高い材料という技術は「壊れにくい」「軽量化できる」「高温でも性能が維持される」といった複数の機能に分解でき、その機能ごとに適した用途は大きく異なる。機能を細分化し言語化することで、技術を既存の用途に縛らず、思いもよらない分野へ応用する可能性が広がる。
Market(市場)

Market(市場)とは、技術が提供する価値を受け取る最終的な顧客領域を指し、MFTフレームワークのなかでも最も事業化に直結する要素である。
市場を捉える際には、単に業界や用途を分類するだけでなく、その市場が抱える課題、顧客が求める価値、成長性、参入障壁、競争構造などを多面的に評価することが重要だ。同じ技術であっても、市場によって求められる性能や仕様、価格許容度は大きく異なるため、市場特性の理解が用途開発の成否を左右する。
また、市場の変化や新しいニーズを捉えることで、既存の技術が新規領域に転用できる可能性も広がる。つまり、技術をどこで活かすべきかを判断するための基盤となる要素だ。
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MFTフレームワークを実践する流れ
MFTフレームワークを実践する際は、まず自社の技術がどのような機能を持つのかを抽出し、その機能がどのようなニーズを満たし得るかを検討することだ。

この流れを理解しやすい例が、刑務所の活用事例である。刑務所は厳重な管理体制を備え、人や物の出入りが極端に制限されるという特徴がある。
これはセキュリティ性が高いという機能に言い換えることができ、その機能に着目した結果、大学入試テストの印刷場所として活用されたという実例が存在する。なお、セキュリティ性が高いという機能に着目していたものの、皮肉なことに服役していた受刑者らにより入試問題が流出する事件にもつながる出来事でもある。

余談はさておき、この考え方を自社の技術分野に置き換えると、具体的な用途探索が可能となる。例えば、弊社ストックマークのコア技術である「自然言語処理」で考えてみる。自然言語処理には文章生成、傾向分析、文脈理解といった複数の機能がある。それぞれの機能に対し、どの市場で価値を提供できるかを検討すると、新たな応用可能性が見えてくる。
文章の自動生成機能であれば、ニュース記事の原稿作成やメール文面の作成支援など、業務効率化を求める市場へ展開できるという仮説が導き出される。このように、技術→機能→市場という順序で思考を進めることが、MFTフレームワークの実践において重要である。
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用途開発におけるMFTフレームワークの活用
MFTフレームワークは、特に新規事業や新製品開発などで技術の用途開発を行う際に有効性を発揮する。用途開発を成功させるための3つのプロセスを紹介する。
技術の棚卸
1つ目は技術の棚卸しだ。技術の棚卸は、用途開発に着手する際の最初の工程であり、自社が保有するコア技術や強みを正確に把握するための作業である。
ここでは単に技術名を列挙するのではなく、その技術が持つ特性や機能を多角的に整理し、どのような価値を生み出せるのかを明確化することが求められる。例えば、一つの技術が耐久性、軽量性、高精度といった複数の機能を併せ持つ場合、それぞれの機能ごとに適した市場が異なる可能性がある。
そのため、技術と市場の間に機能という中間概念を挟んで検討するMFTフレームワークを用いることで、自社技術の可能性を幅広く捉えられるようになる。
イノベーションにつながる本当の「技術の棚卸」とは?
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用途開発分野の発見
2つ目は、用途開発分野の発見である。用途開発分野の発見では、自社技術がどの領域で価値を発揮できるかを見極めることが重要である。
論文や特許情報、メガトレンドなど多様な情報を収集し、技術の強みや将来性を多角的に把握したうえで、市場や社会が今後必要とする分野を探索していく。その際、単に技術と市場を直接結びつけるのではなく、技術が持つ機能を媒介にして考えることで、より創造的かつ網羅的に用途候補を導き出すことができる。
例えば、同じ技術でも耐熱性や高速処理性など異なる機能に着目すれば、参入可能な市場は大きく広がる。
用途深化のためのアイデア発散
3つ目のポイントは、用途深化のためのアイデア発散である。用途深化のためのアイデア発散では、選定した研究分野をより実行可能な企画へと近づけるために、情報を精ち化しながら多角的に発想を広げていく。
この段階では、技術特性や想定ターゲット、用途に関する初期仮説を整理し、顧客インタビューや有識者の意見収集、競合他社の取り組み調査などを通じて現実的なニーズや課題を把握することが重要である。
収集したデータを踏まえて再度MFTフレームワークを適用することで、技術が果たせる機能の可能性を洗い出し、その機能がどのような具体的用途や価値につながるかを多面的に検討できる。
MFTフレームワークの効果を最大化するための3つのポイント
MFTフレームワークをより実践的で成果につなげるためには、押さえるべき3つのポイントある。
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MECE(ミーシー)
MECEとは、Mutually Exclusive Collectively Exhaustiveの略で、物事を重複なく、かつ漏れなく整理するための基本原則である。MFTフレームワークでは、技術を機能へ分解する際にこの考え方を徹底することが重要だ。
もし機能の抽出に漏れがあれば、その機能が結びつく可能性のある市場を見落とすことになり、将来的なビジネス機会を失うリスクが生じる。一方で、似た内容を重複して列挙すれば、分析工数が無駄に増え、検討プロセス全体の効率を損ねてしまう。
技術の棚卸は用途開発の起点であるため、この段階での精度が後工程の質を左右する。したがって、初期からMECEを意識し、抜けのない機能群と整理された構造を整えることが、MFTフレームワークを効果的に活用するうえで不可欠である。
顧客価値の意識
顧客価値の意識とは、技術の高度さだけでは市場で選ばれない現代において、顧客が真に求める価値を中心に発想する姿勢を指す。製品開発では、従来のシーズ発想とニーズ発想を分離して捉えるのではなく、両者を結び付けて検討することが不可欠である。
特に、事業化に向けてアイデアを具体化する段階で顧客価値を意識することで、技術の独りよがりによる市場不適合を防ぎ、実際にユーザーが価値を感じる製品やサービスへと昇華させることができる。この考え方は、MFTにValueを加えたMVFTフレームワークとしても整理され、顧客中心の視点を強化する手法として活用されている。
マーケットインとシーズアウト
マーケットイン型は、市場を起点にして需要や課題を見極め、これを満たすために必要な機能や技術を逆算して検討する。一方、シーズアウト型は自社の技術を起点とし、その技術が提供し得る機能を洗い出し、どの市場で活用できるかを探索する方式である。
MFTは名称上マーケットを先に置くが、実際の発想プロセスでは技術から始めるシーズアウト型の方が取り組みやすいケースも多い。ただし重要なのは、どちらかに偏るのではなく、両者を往復しながら機能を軸に仮説と検証を繰り返すことである。
この反復により、市場の実態と技術の強みを結びつけた、実現可能性の高い用途開発へとつなげることが可能になる。
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なぜMFTフレームワークの活用が増えているのか
MFTフレームワークの活用が広がっている背景には、グローバル化と技術進展に伴う市場競争の激化がある。多くの分野で新規参入が増え、製品やサービスが差別化しにくくなる中、企業は単に新技術を生み出すだけでは優位性を保てなくなっている。
そのため、既存技術を別の用途へ転用したり、技術の持つ機能を再定義して新たな顧客価値を見出すことが重要になった。MFTフレームワークは技術を機能へと分解し、その機能が活かせる市場を多面的に検討できる手法であり、用途開発や新価値創造を効率的に進められる点が評価されている。
市場環境が急速に変化する現在において、柔軟かつ体系的に発想を広げられる手法として採用が増えているのである。
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MFTフレームワークを活用するメリット
最後に、MFTフレームワークの活用を強くおすすめしたい2つの理由を紹介する。
固定観念の払拭し新しい視点を得られる
1つ目の理由は、技術や市場に対する固定観念を取り払い、新たな視点を得られる点にある。企業は多くの場合、自社技術を従来の用途や既存顧客に結びつけて捉えがちであり、その枠組みが思考の制約となる。
しかしMFTフレームワークでは、技術を機能へと分解し、その機能が価値を発揮できる場面を広く探索するため、これまで結びつけていなかった市場や用途が候補として浮かび上がる。例えば、精密加工技術を「高精度な制御」という機能として捉えれば、製造業だけでなく医療機器や農業分野など異業種の市場も検討対象になり得る。
このように、思考の枠を広げることで、新しい可能性に気づける点がMFTフレームワークの大きな利点である。
イノベーションおよび新価値を創出できる
2つ目の理由は、既存技術を起点にしながらも新たな用途や市場を発見し、イノベーションや新しい価値の創出につなげられる点にある。技術をそのまま捉えるのではなく、機能へと分解して再理解することで、従来は想定していなかった分野との接点が生まれ、技術活用の幅が大きく広がる。
例えば、素材技術を「耐熱性」や「軽量性」といった機能として捉え直すことで、自動車、航空、スポーツ用品など多様な市場への展開可能性を検討できるようになる。このような機能起点の発想が、新しい組み合わせや応用を生み、結果として既存事業の枠を超えた価値提案や革新的な製品開発につながる。
まとめ
MFTフレームワークは、自社技術について多角的視点を持って新たな利用価値を探る用途開発において有効活用できる。しかし、フレームワークに当てはめることを目的とするのではなく、技術と市場をつなげて新たな価値を生み出すことを最終目標とするためには、膨大な情報とアイデアの引き出しが必要となる。
そのためには、技術に関することだけでなく大きな視野を持って日々さまざまな情報に触れることが肝要だといえる。良い掛け合わせのアイデアを見つけるために、まずはさまざまな情報に目を通してみてはいかがだろうか。