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燃料電池自動車(FCV・FCEV)とは?仕組みやEVとの違い、メリット・デメリットについて

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脱炭素社会の実現に向け、モビリティの電動化が進む中で、燃料電池自動車(FCV・FCEV)が再び存在感を高めている。

燃料電池自動車とは、水素を用いて発電し走行する仕組みを持つ次世代車であり、走行時にCO2を排出しない点が特徴だ。FCVやFCEVと呼ばれるこの技術は、エネルギー供給の多様化や産業全体への波及効果でも注目される一方、インフラ整備やコスト面といった燃料電池自動車のデメリットも抱える。

本記事では、燃料電池自動車とは何かを起点に、EVとの違い、特性、利点と課題を整理し、技術の現在地を解説する。

燃料電池自動車(FCV・FCEV)とは?

燃料電池自動車とは、車載した燃料電池で水素と酸素を化学反応させて電気を生み出し、その電力でモーターを駆動して走行する自動車を指す。英語では「Fuel Cell Vehicle」または「Fuel Cell Electric Vehicle」と呼ばれ、FCVやFCEVという略称が用いられる。

燃料電池自動車は走行時に二酸化炭素を排出せず、水だけを排出する点が大きな特徴だ。なお、燃料電池の原理自体は新しいものではなく、19世紀初頭にハンフリー・デービーが関連現象を報告し、1842年にはウィリアム・グローブが水素と酸素から安定的に電流を得ることに成功している。

その後、実用技術としては、冷戦期の宇宙開発で採用されたことを契機に大きく進展した。自動車への燃料電池の応用は20世紀から試みられたが、装置の大型化や高コストが障壁となり普及しなかった。

転機となったのは1990年代で、環境規制の強化を背景にメルセデス・ベンツやトヨタ自動車、ホンダなどが研究開発を本格化させ、試作車や限定販売を通じて実用化への道を切り開いた。現在の燃料電池自動車は、その延長線上で進化を続ける次世代モビリティである。

燃料電池自動車の仕組み

燃料電池自動車は、車内で電気をつくり、その電力でモーターを回して走行する仕組みになっている。

主な構成要素は、水素を貯蔵する「高圧水素タンク」、発電を担う「燃料電池スタック」、走行用の「モーター」、そして発進・加速時のモーターアシストや回生ブレーキ電力の貯蔵に用いられる「補助バッテリー」などが挙げられる。

燃料電池自動車の仕組み

走行時には、タンクから供給された水素が燃料電池スタックのマイナス極に送られ、触媒反応によって水素イオンと電子に分離される。この分離した電子は外部回路を通ってプラス極へ流れ、その過程で電気が発生し、モーターの駆動力として利用される。

一方、水素イオンは電解質膜を通過し、プラス極で外部から取り込まれた酸素と電子と結合して水を生成する。この一連の化学反応により排出されるのは水のみで、走行中にCO₂や排気ガスを出さない点が燃料電池自動車の大きな特長である。

また、補助バッテリーは発進や加速時の電力補助や回生ブレーキで得た電力の回収に使われ、効率的な走行を支えている。

燃料電池自動車と電気自動車、水素エンジン車の違い

燃料電池自動車と電気自動車、水素エンジン車の違いは、走行エネルギーの生み出し方と車両構造にある。

まず燃料電池自動車と電気自動車の最大の違いは、電気の調達方法だ。電気自動車は外部電源から充電ケーブルを介して電力を受け取り、大容量バッテリーに蓄えた電気でモーターを駆動する。

一方、燃料電池自動車は外部から電気を充電するのではなく、車載の燃料電池スタック内で水素と酸素を化学反応させ、走行中に自ら電気を生成しながらモーターを動かす。このため、エネルギー補給は充電ではなく水素充填となる。

次に水素エンジン車は、燃料電池自動車とは根本的に異なる方式である。水素エンジン車は、ガソリン車やディーゼル車と同様に内燃機関を持ち、水素を燃料として燃焼させ、その爆発力でピストンを動かして走行する。

燃料電池自動車が化学反応によって直接電気を生み出すのに対し、水素エンジン車は燃焼を伴う点で構造も制御思想も異なる。これら三者は同じ脱炭素技術に見えても、エネルギー変換の考え方が大きく異なる車両である。

項目電気自動車(EV)燃料電池自動車(FCV)水素エンジン車
主なエネルギー源電気水素水素
電気の得方外部電源から充電車載の燃料電池で発電発電しない
走行用駆動源モーターモーター内燃機関(エンジン)
エネルギー補給方法充電水素充填水素充填
燃焼の有無なしなしあり
基本思想電力を蓄えて使う走行中に電気を生み出す燃料を燃やして動力を得る

関連記事:水素自動車(水素燃料電池車)とは何か?仕組みや電気自動車との違いについて

燃料電池自動車に使用される燃料の種類

燃料電池自動車は主に「水素」、「メタノール改質」、「ガソリン改質」の3つの方式が検討・開発されてきたが、現在は水素による直接供給が主流となっている。

水素

まず、燃料電池自動車に用いられる最も代表的な燃料が水素である。現在の燃料電池自動車では、限られた車載スペースで十分な航続距離を確保するため、約70MPaという非常に高い圧力で水素を貯蔵する方式が採用されている。

この高圧水素タンクにより、充填時間はガソリン車と同程度の3分から5分程度に抑えられ、1回の充填で600kmから800km前後の走行が可能となる。水素は燃料電池内で酸素と反応して電気を生み出し、その過程で排出されるのは水のみである点が大きな特長だ。

一方で、水素そのものは製造方法によって環境負荷が異なる。天然ガスなどの化石燃料から取り出す場合、製造過程でCO₂が発生するため、近年は太陽光や風力といった再生可能エネルギーを用いて製造されるグリーン水素への転換が進められており、燃料電池自動車の環境価値を高める鍵となっている。

メタノール改質

次に用いられる燃料方式の一つはメタノール改質である。メタノール改質とは、液体燃料であるメタノールを水蒸気と反応させることで燃料電池用の反応ガスを取り出し、発電に利用する技術を指す。

常温常圧で液体として扱えるメタノールは、気体燃料と比べて貯蔵や輸送が容易であり、専用インフラの整備負担を抑えられる点が大きな利点だ。また、車両側で燃料をそのまま搭載し、必要に応じて改質するため、高圧タンクを必要としない設計が可能となる。

一方で、改質装置を車載する必要があるためシステム構成が複雑になり、反応時に発生する副生成物の処理や効率低下への対策も求められる。メタノール改質は、燃料供給の柔軟性を高める選択肢として研究が続けられてきた方式であり、インフラ制約を緩和するアプローチとして位置づけられている。

ガソリン改質(オンボード改質)

最後に、ガソリン改質、いわゆるオンボード改質は、一般的なガソリンを車載装置で化学反応させ、そこから得られる反応成分を用いて燃料電池で発電する方式である。

既存の給油インフラを活用できる点から、燃料電池自動車の普及初期における現実的な移行策として、多くの自動車メーカーや研究機関が検討してきた。新たな補給設備を整備せずに運用できるため、社会実装までのハードルを下げる狙いがあった。

一方で、車両に改質装置を搭載する必要があり、構造が複雑化するとともに、反応制御や耐久性の面で高い技術力が求められる。また、改質過程では二酸化炭素が副産物として発生するため、走行時の排出を抑えても環境負荷を完全にゼロにはできない。

この点が脱炭素の流れと合致せず、現在は製造段階で二酸化炭素を排出しない燃料を直接利用する方式へと研究開発の主軸は移りつつある。

燃料電池自動車の市場規模

世界の燃料電池自動車市場は、今後十年余りで急成長が予測されている。Stratistics MRCの調査によれば、世界における燃料電池電気自動車の市場規模は2025年に約56億米ドルと評価され、2032年までに約285億米ドルへと大幅に拡大する見通しだ。また、年平均成長率は26.2%と高成長が予想される。

この成長は、乗用車に加えて商用車や長距離輸送向け車両に燃料電池技術が適用されるようになる点が背景にある。燃料電池車は走行時に有害ガスを排出せず、長距離性能や迅速な補給という特性が評価されており、これらの特長は特にバッテリー電気自動車だけでは実現しにくい重量物輸送やバス・トラック市場での導入を後押ししている。

地域別の動向では、アジア太平洋地域が市場の中心になると見込まれている。特に中国は、商用燃料電池車をはじめとする導入が進んでおり、国際エネルギー機関(IEA)によると世界の燃料電池商用車の大多数が同国に集中しているとの報告もある。

一方、欧州や北米でも脱炭素交通の推進策が打ち出されてきたが、政策の変遷や規制緩和が市場見通しに影響を与えている。例えば、欧州連合では一部で内燃機関車禁止の期限見直しが進み、米国でも燃費規制の緩和措置が採られ、ゼロエミッション車普及の勢いに変化が生じている。

政策環境の変動は燃料電池自動車市場にも波及し、長期的な成長可能性とともに不確実性も残る状況である。全体としては技術成熟やインフラ整備の進展、政策支援が継続すれば市場規模は大幅に拡大する見込みだといえる。

燃料電池自動車のメリット

燃料電池自動車の主なメリットには、以下の4つが挙げられる。

有害物質を排出しない

燃料電池自動車の大きなメリットの一つが、走行時に有害物質を排出しない点である。従来のガソリン車やディーゼル車は、燃料を燃焼させる過程で二酸化炭素に加え、窒素酸化物や一酸化炭素、粒子状物質といった大気汚染物質を排出してきた。これらは地球温暖化や健康被害の原因となる。

一方、燃料電池自動車は燃焼を伴わず、電気化学反応によって電力を得る仕組みであり、走行中に排出されるのは水のみである。高温燃焼が起こらないため、空気中の窒素が反応して発生する窒素酸化物も原理的に生じない。

この特性により、都市部の大気環境改善や局所的な排出ゼロに大きく貢献できる点が、燃料電池自動車が次世代クリーンモビリティとして評価される理由である。

静音性に優れている

次に、走行時の静音性に優れている点がある。燃料電池自動車は、内燃機関(エンジン)のような爆発や燃焼を伴わず、化学反応によって得た電気でモーターを駆動するため、エンジン音や振動がほとんど発生しない。

その結果、発進時や低速走行時でも車内外ともに非常に静かで、乗員にとっては快適性が高く、都市環境においても騒音低減に寄与する。

一方で、この高い静粛性は安全面での配慮も必要とされる。低速域では歩行者や自転車が車両の接近に気づきにくくなるため、多くの国や地域で車「車両接近通報装置(AVAS)」の搭載が義務化されている。

航続距離が長い

3つ目に、航続距離の長さもメリットに挙げられる。電気自動車は走行可能距離がバッテリー容量に左右されるため、長距離化には大容量で重量のある電池を搭載する必要がある。一方、燃料電池自動車で用いられる水素は、単位重量あたりのエネルギー密度が極めて高く、比較的少量の燃料でも長距離走行が可能となる。

この特性により、車両重量の増加を抑えつつ、ガソリン車と同等、あるいはそれ以上の走行距離を確保できる。近年の量産モデルでは、一度の充填でおよそ750kmから850km前後の航続距離を実現している例もあり、長距離移動や商用利用において安心感が高い。

航続距離の長さは、利用者の行動範囲を制約しにくいという点で、燃料電池自動車の実用性を大きく支える。

エネルギー効率が高い

4つ目の燃料電池自動車のメリットとして、エネルギー効率の高さが挙げられる。従来のガソリン車は、燃料を燃焼させて発生する熱エネルギーを機械的な運動に変換するが、この過程で多くのエネルギーが排熱として失われてしまう。

一方、燃料電池自動車は、水素と酸素の化学反応から直接電気を取り出し、その電力でモーターを駆動する仕組みであるため、熱損失を最小限に抑えられる。このため、一次エネルギーを走行に利用できる割合が高く、理論上のエネルギー効率は約70〜80%に達するとされている。

燃料電池自動車のデメリット・課題

燃料電池自動車には、エネルギー効率の高さや有害物質を排出しないエコな側面もある一方で、依然としてインフラが整備されていない、コストが高いといった課題も残っている。

補給場所が少ない

1つ目の燃料電池自動車における課題が、燃料を補給する場所が極めて限られている点である。水素を供給する水素ステーションは整備が進んでおらず、Interact Analysisの統計によれば、2024年末時点の世界総数は約1,369基にとどまる。これはガソリンスタンドや電気自動車向け充電設備と比べて圧倒的に少ない。

日本国内でも、2025年時点で整備中を含め約160か所程度にすぎず、日常的な利用には不安が残る。この背景にはインフラ整備の難しさがある。

水素ステーションは高圧ガスを安全に扱うため、特殊な鋼材や圧縮機、冷却設備が不可欠で、1か所あたりの建設費は約4億円から5億円と非常に高額だ。利用者が少ない現状では採算が取りにくく、設置が進まないという悪循環が生じている。

車両および維持コストが高い

2つ目に、燃料電池自動車の普及を阻む課題が、車両および維持にかかるコストの高さである。現在、日本で市販されている代表的なモデルは、車両価格が700万円から800万円以上に設定されており、上位仕様ではさらに高額となる。

これは、同クラスのガソリン車と比べると、2倍から3倍近い水準であり、補助金を活用しても一般消費者には購入のハードルが高い。価格を押し上げている要因の一つが、発電の中核を担う燃料電池スタックに使用される白金などの希少金属や、高圧燃料を安全に扱うための特殊部材である。

さらに、世界的に販売台数が少ないため量産効果が得られず、生産設備や部品調達のコストが下がりにくい。これらの要因が重なり、車両価格と維持費の低減が進みにくい状況が続いている。

水素の貯蔵・輸送コストが高い

3つ目の課題として、水素の貯蔵・輸送にかかるコストの高さが挙げられる。水素は質量あたりのエネルギー量は大きいが、体積あたりのエネルギー密度は低く、そのままでは効率的に扱えない。

そのため、高圧ガスとして圧縮したり、極低温で液体化したりといった特別な方法で貯蔵する必要がある。これには専用のタンクや断熱構造、圧縮・冷却設備が不可欠であり、設備投資が大きくなる。

さらに、貯蔵状態を維持したまま長距離を安全に輸送するには、多くのエネルギーと高度な管理体制が求められ、物流コストの増大につながる。こうした貯蔵・輸送に伴う負担は最終的な燃料価格に反映されやすく、競争力のある価格を実現するには、効率的な供給網の構築とインフラの大規模整備が不可欠である。

燃料電池自動車の開発事例

最後に、燃料電池自動車の開発や販売を行っている企業事例をいくつか紹介する。

トヨタ自動車

トヨタ自動車は、日本を代表する自動車メーカーであり、燃料電池技術の分野でも世界を先行してきた企業である。同社は1990年代初頭から燃料電池の研究開発に着手し、長年の基礎研究と実証を重ねた結果、2014年に量産型の燃料電池自動車「MIRAI(ミライ)」を市場投入した。

トヨタの取り組みは乗用車にとどまらず、近年では燃料電池システムを商用車や大型車両、鉄道、非常用電源など多様な分野へ展開している点が特徴である。また、2025年2月には、耐久性と出力性能を高めつつコスト削減を実現した「第3世代燃料電池システム」を発表し、2026年以降には日本、欧州、北米、中国で大型商用車向けへの本格展開を計画している。

現代自動車(ヒュンダイ)

現代自動車(ヒュンダイ)は、韓国を代表する自動車メーカーであり、水素モビリティ分野において世界的な先行企業の一つである。同社は1998年に燃料電池の専用研究開発チームを設立し、早期から実用化を見据えた開発を進めてきた。

2013年には世界初の量産型燃料電池自動車「ツーソンix35 Fuel Cell」を投入し、市販化で先鞭をつけた。現在の主力モデルは2018年に登場したSUV型の「NEXO(ネッソ)」であり、実用的な航続距離や先進運転支援機能を備え、各国市場で一定の販売実績を上げている。

また、乗用車にとどまらず、世界初の量産型大型燃料電池トラック「XCIENT Fuel Cell」を開発し、2020年以降はスイスを含む欧州やアジアなど13か国で導入を進めてきた。

日野自動車

日野自動車は、日本を代表する商用車メーカーとして、早くから大型車両への燃料電池技術の応用に取り組んできた企業である。同社は商用車分野で培った車両設計や耐久技術を基盤に、燃料電池バスやトラックの実用化を進めてきた。

特にトヨタ自動車との協力関係は長く、2003年には日本初となる燃料電池バスの公道走行実証を開始している。その技術蓄積の成果として、2018年には量産型燃料電池バス「SORA」を投入し、東京都交通局を中心に導入が進んだ。同車両は東京2020大会の選手村輸送にも活用されている。

さらに2022年以降は、物流事業者と連携し、実際の配送ルートを用いた走行実証を実施するなど、商用分野での社会実装に向けた検証を継続している。

まとめ

燃料電池自動車は、水素と酸素の化学反応で発電しモーターを駆動する点で、エネルギーの貯蔵と供給の考え方が電気自動車とは根本的に異なる技術である。短時間での補給や高いエネルギー利用効率、走行時に排出物を出さない特性は、既存の電気自動車では代替しにくい価値を持つ。

一方で、水素インフラの未整備や車両価格、燃料供給のコストといった課題も依然として大きい。燃料電池自動車は電気自動車と単純に優劣を競う存在ではなく、用途や地域、エネルギー供給体制に応じて選択されるべき選択肢の一つである。

今後の脱炭素戦略においては、モビリティ単体ではなく、水素を含むエネルギーシステム全体との整合性を見据えた視点が必要不可欠といえる。

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