製造業の開発現場では、「資料がどこにあるかわからない」「過去にやった調査を繰り返してしまう」「他社の技術や事例を追い切れない」といった課題に日々直面している。調査や情報整理に多くの時間が取られ、本来集中すべき開発検討になかなか集中できないと感じる人も多いだろう。
しかし、これらの課題の背景には、情報の探し方や整理の仕方だけでなく、課題をどう考えるかという“調査のプロセス”の問題も潜んでいる。
本記事では、開発現場でありがちな“調査のムダ”を解消し、手戻りを防ぐための思考プロセスと整理のポイントを紹介する。
目次
現場でよくある開発調査の無駄パターン
製造業の開発現場では、「技術課題を突き止めたいけど、情報がバラバラで全体像が掴みにくい」
「(感覚的に課題に取り組んでいるため)課題をどう解決すべきか毎回迷う…」といった声がよく聞かれる。このような状況では、課題の全体像を正確に把握し、優先順位をつけて取り組むことが、解決への第一歩となる。
まずは、自身の情報収集や調査のやり方を振り返ってみると良い。もしかしたら、次のようなパターンに陥っているかもしれない。
勘ドリブン型
現場では、経験や勘に頼って仮説を立てたり、手探りで情報を集めたりすることが多い。どちらにしても「根拠が曖昧」「検証が増える」「スピードが落ちる」といった課題が生じる。
- 過去の成功体験に依存しがち
- 数字やデータよりも感覚で判断する傾向がある
- 情報の収集や整理に時間をかけず、場当たり的に対応する
- 課題の全体像が把握できず、優先順位が曖昧になりやすい
データ探索型
必要な情報をその都度探し回るものの、集めた情報が整理されないため、過去に行った調査と同じ内容を再び調べてしまうケース。これは、時間と労力の無駄を生み、本来の業務に集中する妨げとなる。
- 必要な情報を都度検索するが体系化されていない
- 過去の調査や資料を再利用できない
- 情報の重複取得や二度手間が多い
- 本来の開発検討に集中できず、意思決定が遅れやすい
属人ノート型
個々人が独自のノートやファイルで情報を管理し、チーム内で共有されないパターンだ。特定の個人しか情報にアクセスできないため、他のメンバーが同じ情報を必要とした際に、再度調査を行う必要が生じ、二度手間が発生する。また、チームで取り組むとなったときも、前提情報が共有されていないことで、まずは背景からの説明が必要になることもある
- 情報が個人のPCやノートに分散している
- チーム内で情報の透明性が低く、属人化が進む
- 新しいメンバーが参入する際に理解に時間がかかる
- 過去の知見が組織全体で活用されず、同じ調査が繰り返される
このような状況を防ぐためには、課題を構造的に整理し、優先度を明確にした上で取り組むことが重要である。以下で、考慮漏れなく解決に導くための“情報活用の思考プロセス”を紹介する。
開発調査の無駄を減らすための5つのステップ
情報があるだけでは目の前の課題解決は進まない。情報が見つからないだけでなく、見つけた情報をどう整理し、課題解決につなげるかもスピード感のある開発には重要なポイントである。まずは、課題を構造的に整理し、考慮漏れなく解決へと導くための思考プロセスを押さえることが重要だ。
たとえば、基本設計や仕様検討を行う場合には、単なるスペック比較に留まらず、多角的な視点から根拠を収集し、意思決定に活かすことが求められるというように、課題解決のためには、以下の5つのステップで情報を整理し、活用することが不可欠である。
ステップ1:課題を構造化して無駄を防ぐ
現象や課題の根本原因を正しく把握し、重要課題に集中することで、手戻りや無駄な検討を防ぎ、開発スピードと品質を向上させることがこのステップの狙いである。
現象を表面的に捉えたまま検討を進めると、課題設定を誤り、後工程での手戻りやリスクの見落としが発生しやすくなる。最初の段階で「何が本質的な問題なのか」を見極めることが重要だ。
実践ポイント
現象を丁寧に分解し、因果関係の構造を明らかにする。
| 要因分析 | |
|---|---|
| 発生事象の特定 | 何が起きたのか、どのような状況で発生したのかを具体的に整理する。 |
| 直接・間接要因の把握 | 表面上の原因と背景にある構造的な要因を分けて洗い出す。 |
| 根本要因の特定 | 表層的な問題にとらわれず、なぜその現象が起きたのかを繰り返し掘り下げる。 |
| 制約条件やトレードオフの確認 | リソースや技術的制約、他プロジェクトとの兼ね合いなど、対応可能な範囲を明確にする。 |
この段階では、すべての課題を詳細に検討する必要はない。深掘りすべきものと、まずは概要を押さえる程度のものを明確に分けて整理しておくことで、次のステップで活用するための土台となる。
課題をリストアップしたら、「どこから着手すべきか」を判断する。
| 優先度の確認 | |
|---|---|
| 課題候補の把握 | 要因分析で洗い出した課題を一覧化し、重複や抜け漏れを確認する。 |
| 影響度・変更可能性の整理 | 各課題が開発全体に与える影響や、改善の実現可能性を評価する。 |
| 解決アプローチのあたり付け | 誰が、どの手段で、どの程度の期間で取り組めるかをざっくり想定する。 |
| 優先順位付け | 影響度・実行可能性・コストやリソース面などから評価し、着手すべき課題を決定する。 |
なお、要因分析と優先度確認で扱う情報には重なりが生じることもある。その場合は、「評価軸としてどのように整理し直すか」を意識し、優先順位決定のための材料として再構成することがポイントである。
- 正確な仮説設定が可能になり、課題の真因を特定できる
- 先回りした対策検討により、将来的な問題発生を未然に防げる
- 重要課題に集中することで、限られた時間・人員・コストを最適に活用できる
- 原因と優先度が明確になり、「どこから手をつけるか」で迷わず改善サイクルを加速できる
ステップ2:社内ナレッジ・過去事例の参照で二度手間を解消
過去の社内資料や事例を参照することで、同じ失敗を繰り返さず、過去の知見を最大限に活かすことができる。設計や開発の判断に根拠を持たせ、効率的に検討を進めるために不可欠なステップである。
実践ポイント
過去の不具合・トラブルの再発防止
新しい設計や仕様を検討する際、過去に同じような失敗がなかったかを確認する。記録が見つからない場合は、同じ問題の再発リスクが高まるため、社内ナレッジを整理・検索しやすい形で保管しておくことが重要である。
設計変更の経緯確認
「なぜこの仕様になったのか」を理解するために、過去の議事録や設計変更履歴を確認する。単に資料を読むだけでなく、次の開発ステップで活用できる情報として整理する意識が必要である。
顧客対応や提案の裏付け
顧客への対応や新しい提案を行う際に、過去の似た案件や対応方法を根拠として示すことで、信頼性の高い説明が可能になる。
- 過去の失敗を踏まえた判断で、同じ問題の再発を防げる
- 設計や開発の経緯を理解することで、余計な検討や二度手間を減らせる
- 顧客や社内への説明が明確になり、信頼性の高い判断をサポートする
ステップ3:他社・他業種の先行事例調査で判断の無駄を減らす
他社や他業種の先行事例を調査することで、自社判断の妥当性を検証し、差別化や最適解の検討につなげることができる。
実践ポイント
差別化ポイントを見極める
同じ技術や手法を他社がどのように活用しているかを確認する。ここでのポイントは、単に真似をするのではなく、自社の強みや独自性を活かした方向性を検討することである。
技術選定の妥当性を確認
自社だけの判断で技術選定を行うことにはリスクが伴う。「他社も同じ技術を採用している」という事実が分かれば、その技術の信頼性や将来性の裏付けになる。これにより、自社単独の判断リスクを低減し、安心して意思決定を進めることができる。
採用事例を顧客・上層部への説得材料にする
「競合や業界大手も採用している」という実績は、顧客や上層部への説得において非常に強力な根拠となる。新素材や新技術の採用を社内で承認を得る際に、この情報は不可欠であり、スムーズなプロジェクト推進に貢献する。
- 他社の動向を踏まえた判断で、技術選定や戦略の妥当性を高められる
- 自社の差別化ポイントが明確になり、競争優位性の確保に役立つ
- 顧客や上層部への説明が説得力を増し、プロジェクト推進がスムーズになる
ステップ4:業界動向・技術トレンドを把握して開発判断を効率化
技術や素材の最新動向を把握することで、導入判断の根拠を明確にし、説明責任を果たせる。また、複数の技術や素材を比較検討するための情報基盤にもなり、意思決定のスピードと精度を高められる。
実践ポイント
技術・素材の採用可否を判断
導入する価値があるかを冷静に検討するため、メリット・デメリットを整理する。不十分な把握では判断が遅れ、機会損失につながるため、情報を漏れなく集めることが重要である。
複数候補を効率的に比較検討
複数の技術や素材を横並びで整理することで、短時間で方向性を決定できる。断片的な情報だけでは検討が長引き、開発スケジュールに影響が出ることがあるため、比較の視点を統一して整理する。
社内・顧客への説明材料としての活用
「メリット・デメリットを整理した結果、この判断に至った」という形で論理的に説明できる。裏付けが弱いと社内外の承認が得にくく、プロジェクト進行が滞る原因になるため、説明資料としても整備しておくことが重要である。
- 技術・素材選定の判断精度が向上
- 複数候補を比較することで、短時間で方向性を決定できる
- 社内外への説明力が増し、意思決定やプロジェクト推進がスムーズになる
ステップ5:規制・特許などの制約確認で手戻りの無駄を防ぐ
国内外の最新規制や特許などの外部制約を把握し、リスクを未然に防ぐことで、安心して意思決定を行える。これにより、開発プロジェクトの成功確率を高め、予期せぬトラブルや手戻りを最小化できる。
実践ポイント
規制リスクを未然に防ぐ
新しい規制や法改正を見落とすと、開発途中で大きな手戻りが発生し、時間やコストの損失につながる。常に最新動向を把握し、開発計画に織り込むことが必須である。
特許リスクを回避
競合他社の特許を侵害していないか確認することで、製品化後の予期せぬトラブルを避けられる。特許の見落としは、製品回収や損害賠償など重大な問題に発展する可能性があるため、注意が必要である。
安心感を与える裏付けに
「規制・特許を踏まえて対応済みである」と明確に示すことで、社内外からの信頼を得られ、プロジェクトを円滑に進められる。この裏付けが不十分だと、顧客だけでなく社内にも不安を残し、意思決定の遅れやプロジェクトの停滞を招く。
単に規制や特許を確認するだけでなく、開発ステップで判断材料として活用できる形に整理しておくことが重要である。たとえば、規制適合チェックリストや特許リスクマップを作成すると、プロジェクトメンバー全員が同じ情報を参照でき、意思決定を迅速化できる。
- 外部制約に基づいた判断が可能になり、手戻りやリスクを最小化できる
- 社内外への説明が論理的に行え、プロジェクト推進がスムーズになる
- 事前に整理することで、意思決定のスピードと精度が向上する
情報共有で開発調査の無駄を解消し、チーム生産性を向上
これまでのステップで収集・整理した情報は、共有されて初めて価値を発揮する。情報は個人の中だけに留まると、同じ調査や検討を繰り返す無駄が生まれる。属人化を防ぎ、チーム全体で情報を活用できる環境を整えることが、生産性向上の決め手である。
つまり、情報を「探す・見る」だけでなく、「蓄積し、活かす」サイクルをつくることが重要である。
- 情報の属人化を防ぐ
調査内容が個人のPCや頭の中だけに留まると、同じ調査が繰り返される原因となる。チーム内で共有することで、二度手間を防ぎ、効率的な情報活用が可能になる。 - チーム全体での判断力を高める
情報共有は、他メンバーの気づきや知見を加え、一人で抱え込むよりも質の高い判断を導き出す。 - 組織にナレッジを蓄積する
たとえば、ナレッジ管理ツール、共通フォルダ、データベースなどに、調査で得た知見を次の案件で再利用できる形で残すことが大切だ。共有が弱いと、せっかくの知見が活かされず、組織全体の成長機会を損失することになる。
情報を活かす力が、開発スピードを変える
調査や情報整理の無駄をなくすことは、開発スピードや品質の向上に直結する。まずは自身の情報整理のやり方を見直すことが重要である。
とはいえ、情報の属人化、情報散在、外部動向の把握といった課題は、現場での実践は容易ではない。そこで、ばらばらになった情報をAIの力で集約し、効率的に活用できるツールの利用が有効である。
たとえば、Aconnectは、社内外の情報を統合して検索・整理できるAIエージェントである。調査や情報整理の時間を削減し、チーム全体でナレッジを活かせる環境を構築できる。現場で繰り返される調査の無駄を解消し、開発業務を効率化するためにこういったツールを導入することも検討されてみてはいかがだろうか。
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