世界の自動車産業は転換期に突入している。カーボンニュートラル政策の本格化に加え、電池性能の向上やコスト変動、国際情勢の不確実性が重なり、電気自動車は一過性の潮流ではなく中核技術として定着しつつある。
2026年における電気自動車(EV)市場の動向を的確に把握することは、新規事業や研究開発、投資判断を決定するうえで不可欠といえる。
本記事では、主要国・地域ごとにおける電気自動車(EV)市場の規模予測や普及政策を整理するとともに、主要の自動車メーカーや新興EVメーカーの戦略動向を解説する。
目次
電気自動車(EV)市場の鈍化は2026年も続くのか?
結論から伝えると、世界の電気自動車市場は2026年も拡大基調そのものは維持するが、成長率は鈍化する見通しである。この背景には、主要市場における政策環境の変化と市場成熟が重なっている。
最大市場の中国では、需要を強力に押し上げてきた購入補助金が段階的に縮小・終了し、価格優位性が低下したことで消費者の買い替えペースが落ちている。加えて都市部を中心に普及率が高まり、新規需要が伸びにくい局面に入った。
欧州では、内燃機関車を2035年までに原則廃止する方針を掲げてきたが、域内メーカーの競争力低下や充電インフラ整備の遅れを受け、合成燃料を含む規制見直しの議論が進んでいる。これによりEV一択という前提が揺らぎ、メーカーは投資計画の修正を迫られている。
米国では、トランプ政権への交代を機に燃費規制の緩和・見直しやEV購入を支える税額控除の廃止が実施され、北米市場では販売台数の伸び悩み、場合によっては減少も視野に入る状況だ。このように、2026年は補助金依存の成長期が終わり、政策の不透明感と消費者の実利重視が交錯する調整局面にあり、各調査機関も世界全体の販売増加率は前年を下回ると予測している。
2026年以降における市場の規模や推移
世界の電気自動車(EV)市場は、2026年以降も拡大基調を維持すると多くの調査が予測しているものの、伸び率や各地域の特性には差が出ている。
Fortune Business Insightsのレポートでは、2025年の世界市場規模は8,926億3,000万米ドルから2032年には2兆1,318億9,000万米ドルに達し、年平均成長率13.2%で成長すると予測されている。これは、電動化への政策支持や技術進歩が継続的に市場を牽引することを反映している。
また、地域別では、IEAの「Global EV Outlook 2025」によると、2024年のEV販売は中国が1100万台超と世界の約3分の2を占め、市場成長を牽引している。欧州は約400万台規模で約2割、米国は約160万台で1割強にとどまる。これは欧州や米国も拡大を続けるが、中国の影響力が市場全体を大きく左右しているといえる。
一方、日本の市場は世界と比べると規模が小さいものの、長期的に成長が期待される。Report Oceanの調査によると、日本のEV市場規模は2035年までに約2,290億米ドルまで拡大し、2025年から2033年には年平均成長率15.58%の成長が見込まれている。
しかし、足元の動きとしては成長の勢いは鈍化している。日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会の統計では、2025年の新車販売に占めるEVは60,677台と前年をわずかに上回ったにとどまり、成長率は1.6%と緩やかであった。このように、世界市場は長期的な拡大が続くものの、地域ごとの成熟や政策変化によって成長ペースにはばらつきがある状況である。
主要各国・地域のEV市場の動向
ここからは、主要各国や地域ごとのEV市場の動向について解説していく。
EU
欧州連合(EU)は、電気自動車(EV)普及政策の再検討を進める中で、2035年までに内燃機関車の新車販売を原則禁止する従来方針を修正しつつ、EV市場を活性化させる新たな制度設計を模索している。
2025年末の提案では、域内で生産される手頃な小型EVのための新たな車両カテゴリを創設し、そのサイズ上限を4.2メートルと設定する見込みである。これは日本の小型車と同等の範囲であり、価格や運用コストを抑えたEVの選択肢拡大を狙ったものである。対象車両は、将来的に税制優遇や充電料金割引、優先的な駐車インフラ利用といった支援策の対象となる可能性がある。この小型EVカテゴリは、EU加盟国と地方当局がそれぞれの環境政策やインセンティブ制度を設計する際の共通基盤となり、購入補助や通行料の減免といった非財政的優遇措置を組み合わせることで普及を促進する狙いだ。
また、この政策は単一市場としての競争力を強化し、CO2排出基準の運用全体に柔軟性をもたらす枠組みの一部として検討されている。こうした施策は、大型EVや高価格帯モデルが主導する従来の市場構造から、より多様な需要層に訴求する方向へ転換する動きとして位置づけられる。
アメリカ
オムディアの調査データによると、アメリカ市場では2025年の自動車新車販売数が1620万台と、トランプ関税や電気自動車助成廃止などに見舞われたにもかかわらず、前年比2.4%の増加となった。これはガソリン車やハイブリッド車の需要が牽引した結果であり、電気自動車の販売自体は依然として苦戦している。
EV販売全体の伸びは鈍く、インフレ削減法に基づく7500ドルの連邦税額控除が2025年9月に終了したことが消費者の購入インセンティブを大きく削減したことが指摘されている。
こうした政策環境の変化は、EVの需要低迷につながり、自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)はEV事業の縮小に伴い2025年10〜12月期に60億米ドル規模の特別費用を計上すると発表した。これは、EV販売の鈍化が財務面にも直接的な影響を及ぼしていることを示している。
加えて、アメリカが国際的な気候変動枠組条約や政府間パネルから脱退したことで、再生可能エネルギーやカーボンニュートラル全般の政策協調が弱まる可能性が出ており、EV市場の成長環境が一層不透明になっている点も見逃せない。こうした構造的な逆風の中で、米国市場のEV普及は依然として一定の課題を抱えている。
中国
中国のEV市場は世界最大規模を維持しつつ、競争環境が一段と激化している。2025年にはテスラの販売台数が前年比8.6%減少する一方、中国メーカーのBYDが販売台数で世界首位に立った。
ただし市場は一強体制ではなく、小米(シャオミ)傘下の小米汽車(Xiaomi Auto)や零跑汽車(Leapmotor)など新興勢力が急成長し、価格、航続距離、ソフトウェア性能を巡る開発競争が加速している。
さらに2026年1月1日には、中国で国家標準の「電気自動車のエネルギー消費量限値 第1部:乗用車」が施行された。これは世界でも例のない強制基準であり、各社は効率改善や車両設計の見直しを迫られている。中国市場は量的成長から質的競争の段階へ移行しつつある。
日本
2026年現在の日本の電気自動車市場は、ハイブリッド車が高い信頼性と実用性で主流を占める独自の構造のもと、欧米や中国と比較して緩やかな移行期にある。日本自動車会議所が公表した2025年10月時点で新車販売に占めるEV比率は約2.8%にとどまり、充電インフラの地域偏在や車両価格の高さが普及の障壁となっている。
こうした停滞感を打破するため、日本政府は2026年に向けて支援策を強化し、2025年末にクリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)の上限を130万円へ引き上げ、電動化目標の堅持を明確にした。
これは、トランプ政権下の米国が補助金を廃止した動きとは対照的であり、2035年までに乗用車の新車販売を電動車100%にするという国策目標を堅持する姿勢を鮮明にしたものだといえる。
国内メーカー各社も、収益性の高いハイブリッド車で利益を確保しつつ、2026年以降に相次いで投入予定の次世代EVプラットフォームの開発を急いでいる。現在、政府による手厚い購入支援と、都市部を中心とした急速充電ネットワークの拡充を両輪として、キャズムを乗り越えようとする転換点だと位置づけられる。
日本におけるEV主要メーカーの動向
次に、日本でトップを走るEV主要メーカーの動向や開発事例について解説する。
ホンダ
ホンダは、電気自動車事業において2026年を大きな転換点と位置づけている。中核となるのが、新開発のEV専用プラットフォームを採用した次世代EV群ホンダ・ゼロ・シリーズであり、2026年から北米市場を起点に本格投入される計画だ。
空気抵抗を極限まで減らした「サルーン」や「スペース ハブ」をベースとする市販車には、将来的な一般道での条件付き自動運転(レベル3)を視野に入れた高度運転支援や独自のソフトウェア基盤が組み込まれる。
一方でホンダは、世界的なEV需要の鈍化や米国での補助金撤廃といった逆風に対し、完全なEVシフトを急がず、ハイブリッド車を含むマルチパスウェイ戦略を継続している。国内では2026年にN-VAN e:や価格を抑えた小型EVの投入を予定し、実用性と価格競争力を重視した普及戦略を進めている。
トヨタ
トヨタ自動車は、2026年現在、EVへの集中投資を継続しつつも市場の需要停滞や米国の政策転換に対応した「マルチパスウェイ(全方位)戦略」をさらに深化させている。同社は2026年を次世代EVの本格展開に向けた実行の年と位置づけ、年間150万台規模の販売目標の実現に向けて技術の社会実装を加速している。
具体的には、航続距離を大幅に高めるパフォーマンス版の角形電池や、車体構造を簡素化してコストを下げるギガキャスト工法を次世代EVで本格採用し、量産競争力の強化を図る。一方で、北米を中心とした政策転換や需要の変動を受け、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車へのリソース配分も柔軟に調整している。
EV専業メーカーが苦戦する中で、高収益な内燃機関車との両立によって得た資金を次世代の全固体電池開発や車載OS「アリーン」の開発に再投資することで、エネルギー事情に応じた最適解を提示し続ける点がトヨタの強みである。
日産
日産自動車は、長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」のもと、EVの先駆者として蓄積した技術を軸に競争力の再構築を進めている。
戦略の中核は全固体電池の自社開発であり2028年頃の実用化を視野に入れる。同時に、経営資源の効率化を目的としたホンダや三菱自動車との戦略的提携を活用し、次世代EVプラットフォームや車載ソフトウェアの共同開発を進め、中国メーカーなどの低価格競争への対抗と開発スピードの向上を図っている。
市場面では、需要変動に対応しつつ独自技術「e-POWER」をEVへの橋渡しとして再定義し、収益性を重視した展開を行う。国内ではサクラに続く軽EVの拡充や、次世代EVの投入を進め、2030年度までにEV19車種を含む電動車27車種を導入し、電動車比率55%超を目指す。
2026年モデルの新型リーフでは設計刷新と性能強化を行い、充電規格への対応も進めるなど、持続可能なモビリティ企業への転換を加速させている。
EV市場を牽引するカギは次世代バッテリーか?それとも自動運転AIか?
電気自動車の主要な技術といえるのが、次世代バッテリーと自動運転AIだ。
Fortune Business Insightsの調査によると、世界の電気自動車用バッテリー市場規模は2025年の769億9000万米ドルから、2032年までに1152億1000万米ドルへ成長。次世代バッテリーの中でも、全固体電池の開発競争はトヨタなどの日本企業にとどまらず、CATLやLGエネルギーソリューションなどアジアを中心に激化している。
関連記事:【2026年予測】激化する次世代電池の開発競争|市場規模と動向について
また、電気自動車と切っても切り離せないのが自動運転AI技術だ。自動運転の制御や運転には半導体の存在が欠かせない。その代表格がエヌビディアである。2026年1月5日、同社は、自動運転車の安全性を高める最新のAI基盤「アルパマヨ(Alpamayo)」を発表。
これまで困難だった複雑な路上にも対応できるとしている。エヌビディアは、今まで自動運転向けに「NVIDIA DRIVE」プラットフォームを提供してきたが、アルパマヨ(Alpamayo)は自律的に文脈を理解し、行動を選択する推論能力をもつ。新基盤を搭載した車両はアメリカで2026年の1月から3月期に公道で走行を開始する見通しだ。
一方、中国もAI半導体の開発で負けていない。ドイツの自動車大手フォルクスワーゲングループ(VW)は、中国の新興EVメーカーの小鵬汽車(Xpeng)が独自開発したAI半導体チップ「図霊(Turing)」と、先進運転支援システム(ADAS)を採用した。また、同時に戦略的パートナーシップの強化を図るため、同社へ約7億米ドルを出資し、4.99%の株式を取得している。
日本では、ラピダスが2025年7月18日に世界最先端の2nmプロセスの試作に成功。実用化されれば、一気に形勢を逆転できるとされているが、技術・人材・資金の不足によって先行きは不透明だ。
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まとめ
2026年のEV市場は、販売台数の拡大局面だけではなく、技術、政策、産業構造が再編されるフェーズへと移行している。各国政府が発表する法規制や支援策は市場形成に大きな影響を及ぼすため、引き続き、注視すべきだろうだろう。
一方で、メーカー各社の競争軸は車両性能だけでなく、電池技術やAI半導体(ソフトウェア)、サプライチェーンの統合力など、複合的な力が求められている。このような環境下では、短期的に市場動向を追いかけるのではなく、電気自動車を核にどのようなエコシステムが形作られているのかを先読みすることが肝心だ。
2026年は、その方向性の成否が中長期の競争力を左右する重要な分岐点となるだろう。