AI処理の高度化や電気自動車の普及により、電力需要の増大と省エネルギー化の両立が強く求められている。この課題に対し、次世代パワー半導体への期待は急速に高まっており、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)に続く新素材として注目されているのがダイヤモンド半導体である。
合成ダイヤモンドが持つ圧倒的な耐圧性や熱伝導性は、電力損失を最小化し、大電力を高効率に制御できる可能性を秘めている。一方で、加工技術や量産性といった課題も残る。
本記事では、ダイヤモンド半導体とは何かを整理し、そのメリットと実用化に向けた現在の取り組み、直面する課題などを俯瞰的に解説する。
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目次
ダイヤモンド半導体とは
ダイヤモンド半導体とは、人工的に合成されたダイヤモンドを基板材料として用いる次世代のパワー半導体デバイスである。従来主流であったシリコンに代わる究極の半導体材料として位置づけられ、現在は実用化に向けた研究開発が世界的に進められている。
ダイヤモンドは、シリコンと比べて約30倍に達する絶縁破壊電界強度を持ち、極めて高い電圧を小型デバイスで制御できる点が特長だ。加えて、物質中でも最高水準の熱伝導率を備えており、動作時に発生する大量の熱を効率よく放出できる。
このため、高電圧・大電流環境でも損失を抑えた安定動作が可能となる。さらに、耐放射線性や耐環境性にも優れ、電気自動車の電力変換装置や通信インフラ、宇宙・原子力分野など過酷な条件下での利用が期待されている。
大型基板の製造や加工の難しさは依然として課題だが、合成技術の進歩により量産化への現実味が増しつつあり、電力インフラを根本から変える材料として注目されている。
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ダイヤモンドデバイスと従来の半導体素材の物性比較
ダイヤモンド半導体は、従来材料と比べて物性面で圧倒的な優位性を持つ。
例えば、半導体素材として主流なシリコンを基準値1とした場合、ダイヤモンドのバンドギャップは約5倍に達し、SiCやGaNの数値を上回る。このバンドギャップが大きいほど高温環境や高電圧条件でも安定動作しやすく、電力損失の低減に寄与する。
さらに絶縁破壊電界強度は約33倍と極めて高く、これもSiCやGaNの数値を大きく凌駕するため、小型デバイスで高電圧制御が可能となる。加えて、熱伝導率も約17倍と非常に高く、発生した熱を効率的に逃がせる点で放熱性に優れる。
これらの特性は性能指標にも反映される。耐圧・オン抵抗・材料特性から電力デバイスの省エネ性能を評価するバリガ性能指数では、ダイヤモンドは約49,000倍と突出した数値を示す。また、高周波動作能力と耐電圧を評価するジョンソン性能指数では、ダイヤモンドは約1,225倍に達し、6G通信などの高周波パワーデバイス用途でも有望な材料と位置づけられている。
| 項目 | シリコン(Si) | SiC | GaN | ダイヤモンド |
|---|---|---|---|---|
| バンドギャップ EG (eV) | 1.0 | 約2.9 | 約3.0 | 約4.9 |
| 絶縁破壊電界 EBR (MV/cm) | 1.0 | 約9.3 | 約16.6 | 約33 |
| 移動度 μ (cm2/Vs) | 1.0 | 約2.7 | 約4.4 | 約10 |
| 熱伝導率 λ (W/cmK) | 1.0 | 約3.8 | 約1.2 | 約17 |
| バリガ性能指数 | 1.0 | 約580 | 約3,800 | 約49,000 |
| ジョンソン性能指数 | 1.0 | 約420 | 約1,100 | 約1,225 |
ダイヤモンド半導体のメリットや特徴
ダイヤモンド半導体が次世代パワー半導体として注目される理由は、その材料特性の圧倒的な優位性にある。
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高耐圧かつ低損失
ダイヤモンド半導体の大きなメリットの一つが、高耐圧と低損失を同時に実現できる点である。ダイヤモンドは絶縁破壊電界強度が極めて高く、従来のシリコンやSiC、GaNと比べても、はるかに高い電圧を小さな素子で安全に制御できる。
この特性により、同じ耐圧を確保する場合でもデバイスを薄く、小型化することが可能となる。また、オン抵抗を大幅に低減できるため、通電時のエネルギー損失が抑えられ、電力変換効率の向上につながる。
特に大電力を扱うパワー半導体では、損失のわずかな差が発熱やエネルギー消費に直結するため、この低損失特性は極めて重要だ。
優れた熱伝導率
次に、ダイヤモンド半導体の特筆すべき特徴が、物質中でも最高水準とされる熱伝導率である。ダイヤモンドはシリコンやSiC、GaNと比べても桁違いに高い熱伝導率を持ち、デバイス内部で発生した熱を瞬時に基板外へ逃がすことができる。
このため、素子温度の上昇を抑えやすく、冷却機構の簡素化や小型化にもつながる。パワー半導体では発熱が性能劣化や故障の主因となるが、放熱性に優れるダイヤモンド半導体は、温度上昇による特性変動を最小限に抑えられる点が大きな利点だ。
結果として、より高い出力密度での設計が可能となり、装置全体の省スペース化や信頼性向上にも寄与する。
高速・高効率動作
また、ダイヤモンド半導体は、高速かつ高効率な動作が可能な点でも注目されている。ダイヤモンド半導体におけるキャリアの移動度や飽和速度は非常に高く、電子が材料中を素早く移動できるため、スイッチング動作を高速化しやすい特性を持つ。
これにより、電力のオン・オフを高い周波数で正確に制御でき、電力変換や信号処理の応答性が大きく向上する。また、高周波領域でも特性が劣化しにくいため、通信基地局やレーダー、次世代無線通信向けのパワーデバイスとしても有望だ。
耐熱性と対放射線性が高い
最後に、耐熱性と対放射線性の高さにおいても他の半導体材料を大きく上回る特性を持つ。ダイヤモンドは非常に大きなバンドギャップを有しており、高温環境下でもキャリアが暴走しにくく、特性の変動や誤動作が起こりにくい。
そのため、冷却が制限される環境や周囲温度が高い条件下でも安定した動作が期待できる。また、結晶構造が極めて強固であることから、宇宙線や放射線による結晶欠陥が生じにくく、放射線照射下でも性能劣化が小さい点が特長だ。
この高い対放射線性は、宇宙空間や原子力関連設備といった過酷な環境での電子機器にとって大きな利点となる。
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ダイヤモンド半導体の活用が期待される用途
ダイヤモンド半導体が注目される理由には、次世代モビリティから通信インフラ、さらには過酷な環境下までの応用可能性が広がることだ。
電気自動車(EV)
1つ目は、電気自動車(EV)などの次世代モビリティ分野である。EVでは、インバーターやDC-DCコンバーターなどが大量の電力を高速かつ高電圧で制御しており、ここでの損失低減と小型化が航続距離や車両設計に直結する。
ダイヤモンド半導体が持つ特性であれば、高電圧動作時でも素子を薄く設計できオン抵抗を大幅に低減できるため、電力変換時の損失が抑えられ、バッテリーのエネルギーをより効率的に駆動力へ変換できる。
さらに、発熱を抑えやすい特性により冷却系の簡素化が可能となり、車両全体の軽量化や設計自由度の向上にも寄与する。これらの効果は、航続距離の延長や充電回数の低減といったEVの競争力強化につながる要素であり、次世代EVを支える中核技術の一つといえる。
高周波・無線通信
2つ目に、高周波・無線通信分野においても有力な次世代デバイスとして期待されている。現在、レーダーや衛星通信、大電力マイクロ波送信機などの超高周波領域では、高耐圧かつ高出力に対応できることから、依然として真空管が用いられている。
しかし真空管は大型で寿命や信頼性、電力効率の面に課題を抱える。もし、ダイヤモンド半導体の実用化が進めば、ダイヤモンドの優れた物性により高電圧・高周波条件下でも安定動作が可能であるため、真空管を半導体デバイスに置き換える潜在力を持つ。
さらに高いキャリア移動度により、ミリ波や将来の6Gで求められる高速信号増幅にも適している。小型化と省電力化を同時に実現できるという点では、既存の通信インフラの高性能化と装置設計の刷新をもたらす技術といえる。
原子力関連や航空宇宙などの極限環境下
そして、3つ目に、原子力関連や航空宇宙分野といった極限環境下での利用も期待されている。原子炉内部や宇宙空間では、高温、高放射線、真空といった過酷な条件が常態化しており、シリコンなど従来材料の半導体では性能劣化や誤動作が避けられない。
それに対しダイヤモンドの物質特性であれば高温下でもキャリアが暴走しにくく、数百℃を超える環境でも安定動作が可能である。また、耐放射線性に優れる点でも原子炉内のセンサーや制御用デバイス、宇宙探査機や人工衛星に搭載される電源制御回路などへの応用が検討されている。
原子炉内部や宇宙空間などの保守や交換が困難な環境で長期信頼性を確保できることは、安全性の面から見ても重要な役割を担うだろう。
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ダイヤモンド半導体のデメリット・課題
しかし、ダイヤモンド半導体の実用化を進めるには、技術的・製造的なハードルの解決が避けて通れない課題としてある。
加工・研磨が非常に難しい
ダイヤモンド半導体の実用化における大きな課題の一つは、加工や研磨の難しさである。ダイヤモンドは自然界で最も硬い物質であり、その高い硬度が優れた耐久性や性能の源泉である一方、微細加工には大きな障壁となる。
なお、半導体デバイスでは、ナノメートル単位で表面を平滑化し、精密な回路構造を形成する必要があるが、ダイヤモンドは通常の研磨材や加工技術では対応できない。そのため、レーザー加工やプラズマエッチングなど特殊な手法が用いられるが、加工速度が遅く、装置コストも高い。
また、結晶欠陥や表面ダメージが生じやすく、デバイス特性のばらつきにつながる点も問題である。
大型基盤の製造技術が未確立
もう一つの大きな課題は、大型基板の製造技術が未確立である点だ。現在、半導体産業で主流となっているシリコン基板は8インチや12インチが一般的だが、人工ダイヤモンドでは数インチ級の基板製造にとどまっている。
人工ダイヤモンドは従来、高温高圧合成法で作られてきたが、この方法では結晶サイズに限界があり、半導体用途に必要な大面積ウエハの製造は困難であった。そこで注目されているのがプラズマCVD法である。
これは水素で希釈したメタンガスを原料に、プラズマ中で生成した炭素種を基板上に堆積させ、ダイヤモンドを成長させる技術だ。ただしCVD法では薄膜形成は可能でも、結晶サイズの拡大が難しいという問題が残っていた。
近年は他材料基板上に成長させるヘテロエピタキシャル成長が研究され、特にサファイア基板とイリジウム中間層を用いる手法が進展している。熱膨張係数差による割れの課題を抑えつつ、2インチ径までのウエハ製造に成功した例も報告されているが、量産に耐える6インチ以上の基板実現には、なお技術的ブレークスルーが必要である。
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ダイヤモンド半導体の市場規模はどのくらい?
前提として、ダイヤモンド半導体の市場規模は、現時点で明確に切り出された統計は存在せず、関連市場からの推測が必要となる。
SiCやGaNといった次世代パワー半導体を中心ではあるが、Knowledge Sourcing Intelligenceが調査したパワー半導体の市場レポートでは、2025年に470億9,200万米ドル、2030年には595億9,200万米ドルに達すると予測しており、ダイヤモンド半導体を含むパワー半導体の市場は伸び続けていることがわかる。
また、360iResearchの調査「ダイヤモンド基板市場」によると、ダイヤモンド基板市場は2024年に約1.9億ドル、2030年に約2.6億ドルと予測されており、この一部が半導体用途に向かっていると考えられる。
加えて、Fortune Business Insightsによる合成単結晶ダイヤモンド市場の調査では、合成単結晶ダイヤモンド市場は数十億ドル規模となっているが、工具や熱用途、ジュエリーが中心で、半導体用途は限定的である。
これらを踏まえると、ダイヤモンド半導体市場は世界で数百万〜数千万ドル規模にとどまると推測され、現段階では将来性が注目される技術領域と位置づけられる。
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ダイヤモンド半導体の実用化が始まる目処は?
ダイヤモンド半導体の実用化は、これまで研究開発段階にとどまっていたフェーズから産業実装へ移行しつつあり、2026年が歴史的な節目となる見込みである。
日本では福島県大熊町に建設中の世界初のダイヤモンド半導体量産工場が2026年内の稼働開始を目指しており、商用デバイスの本格生産に向けた動きが進んでいる。これと並行して2026年1月からは、国内企業であるダイヤモンドセミコンダクターが世界初となるダイヤモンド半導体デバイスのサンプル製造・販売を開始する計画が公表されており、実用化の第一歩が具体化している。
初期の適用領域としては、耐放射線性や高温動作が求められる宇宙通信や特殊環境下での増幅器・センサー、防衛用高出力レーダーなどの特殊分野が中心となる可能性が高い。これは、従来の半導体材料では対応が難しい要求に応える特性を持つためだろう。
また、2020年代後半には、製造コストの低減や大径ウエハの量産技術の確立が進むと予想され、通信インフラや電力制御機器など幅広い産業用途への展開も視野に入っている。2030年代に入ると、電気自動車の電力変換効率改善や次世代通信規格を支えるデバイスとしての本格的な普及が見込まれており、現在は社会実装へ向けた助走期間にあるといえる。
ダイヤモンド半導体を開発する日本企業・ベンチャー
最後に、国内でダイヤモンド半導体の実用化を牽引する存在として、研究開発を先導する日本発の企業・ベンチャーを4社紹介する。
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大熊ダイヤモンドデバイス
大熊ダイヤモンドデバイスは、北海道大学および産業技術総合研究所で培われた研究成果を基盤に設立された、ダイヤモンド半導体デバイスの研究開発・製造を手がけるスタートアップである。
福島第一原子力発電所の廃炉作業で課題となる高放射線環境を想定し、計測機器やロボット向け通信デバイスなど、従来半導体では故障リスクが高い用途での社会実装を目指している。2026年には福島県大熊町に世界初となるダイヤモンド半導体の量産工場を本格稼働させる予定で、研究段階から産業実装への歴史的な転換を主導している。
Power Diamond Systems
Power Diamond Systemsは、早稲田大学の川原田洋教授の研究成果を基に設立された、ダイヤモンド半導体のパワーデバイスおよび高周波デバイスの研究開発を行う日本のスタートアップである。
同社は、ダイヤモンドの表面を水素で処理することで導電性を持たせる独自の「水素終端表面」技術を核としており、ダイヤモンドMOSFETのノーマリ・オフ化を含むデバイス開発を進めている。
さらに2025年7月にはJAXAとの共同研究を開始し、宇宙・航空分野での適用可能性を検証するため、宇宙機向けパワーMOSFETに焦点を当てた評価と基礎データ取得に取り組むとしている。
ミライズテクノロジーズ
ミライズテクノロジーズは、トヨタ自動車とデンソーの出資により2020年に設立された、車載半導体の研究開発を専門とする合弁会社である。自動車メーカーと主要部品サプライヤーの知見を併せ持つ体制を背景に、電動化、自動運転、コネクティッドといった次世代モビリティを支える半導体技術の開発を担っている。
2026年現在、同社はシリコンを上回る物性を持つダイヤモンド半導体の車載応用に向けた基礎研究と技術検証を進めており、Orbrayなどの外部パートナーとも連携して大口径ウエハの加工技術や放熱設計の最適化に取り組んでいる。
極限の効率と信頼性が求められる電気自動車のインバータなどにダイヤモンドデバイスを適用することで、将来的な車両の航続距離延長や冷却システムの小型化を目指している。
株式会社イーディーピー
株式会社イーディーピーは、産業技術総合研究所の技術移転を基盤に2009年9月8日に設立された産総研発ベンチャーで、単結晶ダイヤモンドと関連素材の製造・販売・開発を手がける企業である。本店所在地は大阪府豊中市で、2022年6月に東証グロースへ上場している。
同社は板状単結晶の分離技術などを背景に、人工宝石の種結晶や半導体研究用基板、ヒートシンク用途などへ供給してきた。近年は半導体基板用途を見据えた大型化も進め、30×30mm基板の製品化に続き、ダイヤモンド1インチ単結晶ウエハの発売も公表している。
ダイヤモンドセミコンダクター
株式会社ダイヤモンドセミコンダクターは、ダイヤモンド半導体研究の世界的権威である佐賀大学の嘉数誠教授の研究成果を社会実装するために設立された大学発ベンチャーである。
同社は、嘉数教授が確立した二酸化窒素(NO2)を用いるドーピング技術や、真空を使う独自のALDで酸化アルミニウム薄膜を形成する手法があり、2022年に世界最高水準の出力電力(875MW/cm²)と出力電圧(3659V)を報告している。
また、嘉数誠教授らが佐賀大学は、2026年1月から同社が世界初となるダイヤモンド半導体デバイスのサンプル製造・販売を開始すると公表しており、マイクロ波帯・ミリ波帯の無線機器やBeyond5G・6G、衛星通信での動作実証を見据えた社会実装を進める方針である。
まとめ
ダイヤモンド半導体は、次世代パワー半導体として極めて優れた物性を備え、近年は性能指数の面でも既存材料に迫る進展を見せている。脱炭素や省エネルギーの要請に加え、電気自動車や6G、宇宙産業など応用領域は広く、今後も注視すべき技術である。
日本は基礎研究から実装まで主導的な立場にあり、市場は小さいものの中長期的な成長余地は大きい。関連分野の動向を継続的に把握し、技術連携や事業創出の機会を見極める姿勢が重要だ。